2021 Fiscal Year Research-status Report
水田細菌叢形成における土壌物理・化学・生物性の影響解析と支配的因子の特定
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21K14952
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
鈴木 一輝 新潟大学, 研究推進機構, 助教 (40801775)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 水田細菌叢 / 土壌微生物 / 水田土壌 / 多様性 / 土壌型 / エンドファイト |
Outline of Annual Research Achievements |
水田においては土壌細菌群集がその地力の維持に重要な役割を果たしていることが明らかになっているが,その群集形成メカニズムは未だ不透明であり,菌叢の制御には至っていない。我々は先行研究において,我が国の水田土壌細菌群集を広域にわたり解析し,水田細菌群集は肥培管理や地理的要因よりも土壌タイプ(型)間で大きく異なることを見出した。本研究の目的は,「土壌のいかなる性質が水田細菌叢を決定しているのか」を明らかにすることである。本研究では,マイクロコズム実験にて,土壌の物理性・化学性・生物性の3つの観点から細菌叢の形成メカニズムを明らかにするとともに,細菌叢形成に支配的な因子の特定を目指す。加えて,土壌型間に見られる潜在的な細菌叢と生態学的機能についても取りまとめ,水稲生育促進を目指した土壌細菌叢制御の可能性を探る。 初年度は課題1として黒ボク土・灰色台地土・グライ土を用いて土壌特性の改変による細菌叢の制御を試みた。まず,複数のフミン酸および活性型のアルミニウム化合物を添加するマイクロコズム試験により水田土壌細菌叢への影響を検討した。その結果,いずれの場合においても細菌叢への影響はほとんど無く,各土壌型で一定の細菌叢を示した。従って,一般的に生物毒性があるとされる活性アルミニウムやそれを保持する腐植物質量が黒ボク土壌型の細菌叢を形成しているという仮説は支持されず,菌叢形成因子としての重要性は低いものと考えられた。課題2として黒ボク土・灰色台地土・灰色低地土・グライ土・砂丘未熟土を菌叢接種源とする水耕栽培にてイネ根エンドファイト群集の形成を検討した。その結果,接種源の土壌型ごとにエンドファイト群集が異なり,特に黒ボク土を接種源としたときにのみ検出されるエンドファイトが多く認められた。2022年度も引き続き,マイクロコズム試験および水耕栽培試験等により前述の2課題を検討していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【課題1】水田土壌細菌叢形成における支配的因子の特定 広域に渡って採取した水田土壌の理化学性分析を進め,細菌叢の変動と強い相関を示す因子の推定を行った。その結果,特に黒ボク土壌では特徴的な細菌叢が形成される傾向にあり,土壌中の有機物量,腐植酸量,および活性アルミニウム量との相関が認められたことから腐植-アルミニウム複合体の影響が考えられた。そこで,黒ボク土由来フミン酸・市販のフミン酸・中性フミン酸塩・アロフェン・水酸化アルミニウムゲルを用いて細菌叢形成への影響を検討したが,いずれの添加物による影響も認められなかった。引き続き,土壌特性の改変によるマイクロコズム試験にて菌叢形成因子の特定を進める予定である。 【課題2】土壌型間に見られる細菌叢の違いと生態学的機能の解明 近年我々が開発した改良型水耕栽培システムを用いて,イネと土壌の接触を排除したうえで黒ボク土・灰色台地土・灰色低地土・グライ土・砂丘未熟土におけるイネ根エンドファイト形成を検討した。その結果,エンドファイトの豊富さおよびα多様性は黒ボク土で最大であったが,イネの生育量はグライ土や灰色低地土の方が高かった。今後はこれらの特徴的なエンドファイトの単離と特性の評価を行い,土壌型ごとの細菌叢の違いとイネ生育への寄与について検討を進める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では土壌型に見られる水田細菌叢への影響の違いを土壌の物理性・化学性・生物性の3面から検討することで細菌叢形成メカニズムの解明と支配的因子の特定を目指す。特に生物性として重要な原生生物叢は細菌叢を変化させ得ると共に,原生生物叢そのものも土壌の物理性・化学性によって変動すると推察される。そのため,土壌の物理性・化学性の改変の影響を細菌叢および原生生物叢とその相互作用の面から解析する。また,課題2として土壌型間に見られる潜在的な細菌叢と生態学的機能の違いについて取りまとめる。 2022年度では課題1として土壌特性のうち物理性,特に粒形組成に焦点を当てる。各土壌型について粗砂,細砂およびシルト・粘土画分に分画し,異なる比率で再混合することで土壌物理性を改変し,マイクロコズム試験にて細菌叢および原生生物叢への影響を検討する。課題2として,初年度に土壌型ごとに異なるイネ根エンドファイト形成が確認されたことを受けて,これらの特徴的なエンドファイトの単離を進める。その後,単離株の単独または共接種試験を実施し,イネ生育への影響を検討する。
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