2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K14978
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Research Institution | Nippon Veterinary and Life Science University |
Principal Investigator |
塩川 舞 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 講師 (00739162)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ペスチウイルス / 細胞指向性 / 牛ウイルス性下痢ウイルス / ボーダー病ウイルス |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、「ペスチウイルスの培養細胞レベルでの宿主域の明確化」を目的として研究を行った。ペスチウイルスの培養に適した細胞はすでに明確化されており、ゆえに、それ以外の細胞に対する感染性は評価される機会がほとんど無かった。そこで、本研究では、様々な動物由来培養細胞を用いて、ペスチウイルス(豚熱ウイルス; CSFV、牛ウイルス性下痢ウイルス; BVDV、ボーダー病ウイルス; BDV)の感染実験を実施し、培養細胞レベルでの宿主域を調査した。 ウイルスを感染させた細胞を免疫染色に供し、ウイルス抗原陽性細胞の有無を確認することで様々な種類の培養細胞に対するペスチウイルスの感染性を評価した。抗原陽性細胞が認められた場合にはその培養上清を保存し、次年度に実施する馴化ウイルスの作出に使用予定である。ただし、CSFV(弱毒株使用、BSL1)については、培養細胞に対する感染性の評価のみを実施することとし、感染細胞由来培養上清の保存と馴化ウイルスの作出は実施しない計画に変更することとした。 また、研究計画3年目の後半からは、ペスチウイルスが自然宿主以外の動物由来細胞に馴化した場合に、それに伴って導入された遺伝子変異の解析を計画している。変異の解析に必要なペスチウイルスのリバースジェネティクスシステムの構築も、研究計画1年目から3年目の前半に予定しており、ウイルスの培養細胞を用いた感染実験と並行して実施した。これまでの経験から、ペスチウイルスの遺伝子が大腸菌内で非常に不安定であることが強く示唆されていたため、本年度は、セルフリーシステムを用いた各ペスチウイルスの人工合成が可能かどうか検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに、ペスチウイルス3種の培養細胞における宿主域の調査をほぼ完了させることができた。ウイルスに対する感受性の検討には、ウシ(2種類)、ブタ(3種類)、ネコ(2種類)、ヒツジ、サル、ウサギ、ハムスター、モルモット、ヒト、アライグマ由来の培養細胞を使用し、多重感染度が1.0(理論上1個の細胞にウイルス1粒子が感染することを意味する)になるように各ウイルスを感染させた。至適な培養期間を経た感染細胞を免疫染色に供し、ウイルス抗原陽性細胞の有無を確認することで、ペスチウイルスに対する感受性を評価した。その結果、BDVが最も広範な細胞種に感染できることが明らかになり、事前実験の結果を支持する結果が得られた。一方で、事前実験の段階ではCSFVの培養細胞における宿主域が狭い傾向にある(野外での宿主域を反映している)ことが示唆されていたが、多重感染度を高く(1.0以上)設定して感染させると、少ないながらも抗原陽性細胞が検出されるケースもあった。実験に使用したCSFVの弱毒株はすでに異種動物由来細胞に馴化させている背景があるため、本年度以降の解析に適さない可能性があると判断し、次年度以降の研究計画から除外することとした。 ペスチウイルスの培養細胞における宿主域の調査と並行して、セルフリーシステムを用いることで各ウイルスを人工合成できるか検討を行った。その結果、ウイルス遺伝子の全長約12kbを6~8断片に分けてPCRで増幅した後に、キットのマニュアルに沿ってPCR産物を反応させることで完全長cDNAクローンを得ることができた。このcDNAクローンをもとに合成したRNAを至適な培養細胞に電気穿孔法で導入し、BVDVとBDVを人工的に合成することに成功している。 以上から、研究計画1年目に遂行予定であった実験項目を達成できていることから、概ね順調に研究が進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画2年目は、「異種動物由来細胞に馴化した(種の壁を超えた)ペスチウイルスの作出」を行う。研究計画1年目の結果から、各ペスチウイルスが感染可能な異種動物由来細胞が明らかになり、ウイルスが感染可能であった細胞の上清(P.1とする)を凍結保存するところまで完了している。ウイルスに対して感受性を示した培養細胞とそのP.1上清試料を用いてウイルスの盲継代を行い、異種動物由来細胞に馴化した、すなわち、種の壁を超えたペスチウイルス(BVDVおよびBDV)を作出する。 BVDVを用いた事前実験より、約20回のウイルス継代で異種動物由来細胞に馴化できる可能性が示唆されているため、各ウイルスの盲継代は20回(P.20)を目安として行う。定期的にウイルスの感染性を確認し、P.10でも異種動物由来細胞に十分に感染できること(得られるウイルス力価が高い、感染細胞のほとんどが抗原陽性細胞になる、など)が確認できた場合には、必ずしもP.20まで継代を繰り返す必要はないこととする。 研究計画1年目にセルフリーシステムを用いることでBVDVとBDVを人工的に合成することに成功している。研究計画3年目以降は、ウイルスゲノムに遺伝子変異を人為的に導入することで、変異ウイルスを作出する必要がある。遺伝子変異を導入するためには、cDNAクローンをつくるために増幅した6~8つのPCR産物をそれぞれプラスミドベクターに挿入しておく必要がある。従って、次年度(研究計画2年目)は馴化ウイルスの作出と並行して、ウイルスゲノム由来PCR産物(Fragment1-6またはFragment1-8)をプラスミドにクローニングする作業もあわせて実施する予定である。
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Causes of Carryover |
研究計画1年目(R3年度)は、7766円の予算を残した状態ではあったが、研究計画をほぼ遂行できていたのであえて使用しなかった。次年度は予想よりもウイルスの遺伝子を扱う実験が増えることが予想されるため、その経費に充てる予定である。
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