2022 Fiscal Year Research-status Report
豚由来О7群サルモネラの遺伝学的全容の解明と薬剤耐性・病原性を規定する因子の同定
Project/Area Number |
21K14980
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
新井 暢夫 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 動物衛生研究部門, 研究員 (20885008)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | Salmonella Choleraesuis / Salmonella 7:c:- / 全ゲノム解析 / 薬剤耐性 |
Outline of Annual Research Achievements |
Salmonella Choleraesuis(SC、抗原構造; 7:c:1,5)は豚のサルモネラ症の主要な原因血清型の一つであり、豚に消化器症状や全身症状を引き起こすことで養豚経営に被害を与える。SCによるサルモネラ症の制御が求められる一方で、我が国に分布する本血清型の遺伝学的多様性、薬剤耐性、病原性等の特徴は十分明らかにはなっていない。また、野外では7:c:-というSCと類似した抗原構造を示すサルモネラ属菌がしばしば分離されるが、本菌とSCとの遺伝学的関係や病原性は不明である。そこで本研究では、我が国に分布するSCの遺伝学的全容と7:c:-との関係を明らかにすることを目的とした。令和4年度は26都道府県から収集した豚およびイノシシ由来SCと7:c:- 265株、公共データベースに登録されている海外株(29か国由来、205株)を合わせた計474株のコアゲノム内一塩基多型に基づく分子系統解析を実施した。系統解析およびhierBAPSによるクラスタリングの結果、SCおよび7:c:-は5つのクレードに区分された。クレード1と2は主に生物型Choleraesuis(SCC)、クレード3~5は生物型Kunzendorf(SCK)で構成され、日本国内株はクレード2、3、5に集約された。また、2相鞭毛抗原遺伝子を保有しない菌株(7:c:-)は系統に因らず分布したが、日本国内の7:c:-はクレード5に集約された。このため、解析に供した7:c:-はSCの単相変異株であることが示唆された。国内株について、様々なカテゴリーの22薬剤に対する薬剤感受性を調べたところ、両生物型ともにストレプトマイシン、サルファ剤に60%を超える耐性率を示し、95%のSCCはテトラサイクリンに耐性を示した。さらにSCCではアジスロマイシンに耐性を示す亜系統がクレード2に存在し、本系統は多剤耐性傾向が顕著であるため(3~9剤・平均7剤)、薬剤耐性の観点から家畜衛生上の高リスク系統と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、本年度までに国内で分離されたSCおよび7:c:-について大規模な全ゲノム解析を実施し、本血清型内の遺伝的な全体像の把握に至った。さらに、国内に分布するSCの薬剤耐性状況を明らかにし、多剤耐性化が顕著な系統であるクレード2を見出した。このため、おおむね当初の計画通り進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は当初の予定通り、収集した474株についてゲノム解析(病原因子、アクセサリー遺伝子のレパートリー比較)を継続するとともに、各クレードの代表株を用いてサルモネラの病原性発現において重要な過程である腸管上皮細胞への侵入性とマクロファージ内生残性を比較することで、家畜衛生上注視すべき系統の特定を目指す。
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Causes of Carryover |
消耗品類が当初計画より安価に購入でき、加えて外部に委託した全ゲノムシーケンシングの経費が予定より安価であったため、その経費が次年度使用額となった。本経費は令和5年度に実施する培養細胞を用いたSalmonella Choleraesuisの病原性解析に必要な試薬および理化学機器の購入に使用する。
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