2021 Fiscal Year Research-status Report
上皮細胞傷害性を有する腸内細菌による大腸がん発生機序の解明
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21K15008
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
辻 竣也 大阪大学, 微生物病研究所, 特任研究員(常勤) (80898370)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 腸内細菌叢 / 大腸がん / 腸管バリア機構 / SARS-CoV-2 / 細胞老化 / Long-COVID |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は以前、特定の腸内細菌が増加することで大腸癌の発生や進行に関与することを報告した。しかしながら、このように腸内細菌が強く我々に影響を与えるには、腸管バリアが緩む必要がある。我々は腸管上皮細胞傷害性をもち、大腸癌患者で存在比率が上昇している細菌を数種同定し、その機能解析を行なっている。一方で、2019年12月に発生した、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は急性呼吸器疾患であるが、その多くの患者で腸管からもウイルスが検出され、下痢に伴う著しいdysbiosisが引き起こされることが報告されている。我々は、SARS-CoV-2の感染によりdysbiosisが引き起こされ、我々が同定したような細菌が増加することで将来的に大腸癌の発症につながる恐れがあると考えた。そこで 実際に、SARS-CoV-2を感染させたsyrian hamsterの腸内細菌叢解析を行った。感染前、感染後3日、7日、14日と糞便を回収し菌叢解析を行なった。ヒトでは感染し症状が出てから2日程度で糞便中にSARS-CoV-2が検出されるのに対し、syrian hamsterでは糞便中にウイルスは検出できなかった。一方で、感染後3日目の肺では非常に多くのSARS-CoV-2が検出された。また、残念ながらSARS-CoV-2感染後もハムスターの腸内細菌叢に大きな変化は認められず、COVID-19患者とは腸管における病態は異なることが示唆された。しかしながら、この実験の過程で、感染後14日目の肺において、細胞老化が誘導され、ウイルスが肺から検出されなくなったにも関わらず、SASP因子に分類されるいくつかの炎症性サイトカインやケモカインの発現が上昇していることを見出した。このような状態は、COVID-19から回復した後も長期に渡り続くLong-COVIDと呼ばれる病態に関連することが考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は腸内細菌叢と大腸癌に注目した研究を行なう中で、なぜ大腸癌発生に関連する腸内細菌が増加するのか、その原因を探っていた。その際に、新型コロナウイルス感染によりdysbiosisが生じることが報告されたため、今後、COVID-19患者において腸内細菌叢が乱れることで、大腸癌に関連する腸内細菌が増加してくるのではないかと考え、新型コロナウイルスと腸内細菌の関係を調べるに至る。ハムスターを使用したモデルでは新型コロナウイルス感染でも腸内細菌叢は大きくは変化しなかった。しかし、この実験の過程で新型コロナウイルスに感染したハムスターの肺で細胞老化が誘導されており、SASP因子の分泌を介し、Long-COVIDの原因の1つと考えられている慢性的な炎症反応の原因となる可能性を見つけた。当初の目的とは方向性は違うが、新型コロナウイルス感染症において、非常に問題視されている後遺症の原因の一端を明らかにすることができ、論文を投稿することができたため計画以上の進行があるとした。
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Strategy for Future Research Activity |
我々はすでに新型コロナウイルス感染が肺において細胞老化を誘導することを報告している。また、特定の腸内細菌が腸管の線維芽細胞に細胞老化を誘導することで、慢性炎症を引き起こし、大腸癌の発生、進行に関与することが明らかになっている。これらのことから、もしかすると、COVID-19患者のように腸で新型コロナウイルスが感染・増幅するとすれば、新型コロナウイルス感染により肺と同様にして細胞老化が誘導される可能性や、腸内細菌叢が乱れ大腸癌の発症に関連する細菌が増加する可能性が考えられ、大腸癌の発生、進行を促進する可能性が考えられる。そこで、今後は、新型コロナウイルス感染が、大腸癌の発生や進行に与える影響を検討する。具体的には、新型コロナウイルスをハムスターに感染させた場合、腸内細菌叢の大きな変化は見られなかったため、今後は、マウスのモデルを用いた検討を行う。マウスに新型コロナウイルスを感染させると著しい体重減少を示し、ヒトと同様に下痢を起こす。このことから腸内にウイルスが感染している可能性が考えられる。そこで、このようなマウスモデルを用いて、新型コロナウイルス感染前後の糞便サンプルを回収し菌叢解析を行う。さらに、その時の腸管の状態や細胞老化の誘導を評価する。また、大腸癌モデルマウスであるC57BL/6J ApcΔ14/+マウスに新型コロナウイルスを感染させ、大腸癌の発生頻度、腫瘍の大きさ等を評価する。このような検討を通して、現在も全世界で流行している新型コロナウイルス感染症と腸内環境、さらには大腸癌の関連を解明していく。
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Research Products
(2 results)
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[Journal Article] SARS-CoV-2 infection triggers paracrine senescence and leads to a sustained senescence-associated inflammatory response2022
Author(s)
Tsuji S, Minami S, Hashimoto R, Konishi Y, Suzuki T, Kondo T, Sasai M, Torii S, Ono C, Shichinohe S, Sato S, Wakita M, Okumura S, Nakano S, Matsudaira T, Matsumoto T, Kawamoto S, Yamamoto M, Watanabe T, Matsuura Y, Takayama K, Kobayashi T, Okamoto T, Hara E
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Journal Title
Nature Aging
Volume: 2
Pages: 115~124
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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