2022 Fiscal Year Research-status Report
順遺伝学で同定した新規遺伝子によるマウス・ヒトにおける神経分化制御機構の解明
Project/Area Number |
21K15011
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
吉田 純子 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (30769196)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 神経分化異常 / zinc finger protein / 1細胞解析 / 神経デフォルトモデル / 分化抵抗性 / ES細胞 / adult neurogenesis / 順遺伝学 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は、変異に伴いマウスES細胞の分化に異常をきたす機能未知のzinc finger protein(Zfp)遺伝子を同定し、その機能解析を進めてきた。その過程で、本Zfp遺伝子は特に神経分化に重要な機能を果たしていることがわかった。 令和4年度は特に1細胞RNA-seqの情報解析に注力した。野生型マウスES細胞および本Zfp遺伝子の変異ES細胞の神経分化誘導前、神経分化後7日目、神経分化後14日目(合計6サンプル)の経時的な1細胞RNA-seq解析の結果から、本Zfp遺伝子の変異ES細胞では胎盤方向へ分化する細胞集団が存在することを突き止めた。現在、さらにtrajectory解析を行うことによって、野生型には存在しない遺伝子制御ネットワークを同定することを試みている。 また令和4年度は、これまでのマウスES細胞での結果を踏まえて、ヒトiPS細胞における本Zfp遺伝子の機能を調べることを目的として、本Zfp遺伝子のヒトのホモログであるZNF遺伝子を破壊した株を、ゲノム編集技術を用いて作製することを試みた。しかしながら、ZNF遺伝子をCRISPR/Cas9システムのgRNAで切断しただけで細胞の形態が分化細胞様に変化し、破壊すると未分化性が高まるマウスの本Zfp遺伝子とは正反対の表現型を示しており、現時点ではまだヒトのZNF遺伝子の破壊株は獲得できていない。このことから本Zfp遺伝子の機能は、マウスとヒトでは異なる可能性が示唆されるので、今後はヒトiPS細胞については、conditional knock out株の作製に方針転換することなどを検討していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初予定していた、ヒトiPS細胞における本Zfp遺伝子のホモログ(ZNF遺伝子)への破壊株の作製が遅れている。ZNF遺伝子をCRISPR/Cas9システムのgRNAで切断しただけで細胞の形態が分化細胞様に変化し、現時点ではまだヒトiPS細胞のZNF遺伝子の破壊株は獲得できていない。今後、ヒトiPS細胞でのZNF遺伝子の機能解析については、conditional knock out株またはAuxin/AIDシステムによる破壊によってヒトでの表現型解析を行う、などを検討していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの実験で、本Zfp遺伝子とOct4という多能性制御に重要な分子との関連性を発見しているので、引き続き、本Zfp遺伝子産物とOct4との物理的または機能的な相互作用を中心に解析を進める予定である。方法としては、ライブセルイメージングによってOct4とZfp遺伝子の挙動を解析する。また、Oct4と本Zfp遺伝子のHiChIP解析を行い、ES細胞が未分化状態から分化状態へと遷移する過程におけるこれらの分子の挙動と、その背後にあるゲノム三次元構造解析を行う予定である。 今年度1細胞RNA-seq解析によって同定した、胎盤方向へと分化誘導されていく変異体の細胞集団については、その鍵となる転写因子を同定し、その転写因子の挙動を野生型と比較する。 ヒトiPS細胞でのホモログZNF遺伝子のノックアウト株作製も引き続き進め、神経分化誘導時の経時的遺伝子発現の推移を調べ、マウスでの遺伝子ネットワークと比較することで機能解析を進めていく。
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Causes of Carryover |
令和4年度は、ヒトiPS細胞における本Zfp遺伝子の機能を調べることを目的とし、本Zfp遺伝子のヒトのホモログであるZNF遺伝子の破壊株を作製することを試みた。しかしながら、破壊株を獲得することが困難であったため、当初の計画より遅れが生じた。 また、本Zfp遺伝子はOct4という重要な分子との関連性があり、この分子メカニズムを詳細に解析するため、HiChIP解析を計画している。しかし、この解析には高額な受託解析費用が必要になるため、令和4年度使用予定であった額と次年度分を合わせた金額で、次年度にHiChIP解析を行う予定である。
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