2021 Fiscal Year Research-status Report
翻訳開始因子eIF4A1とグルタミン代謝による協調的な発現制御機構
Project/Area Number |
21K15023
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
七野 悠一 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 基礎科学特別研究員 (40748365)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 翻訳 / 代謝 / 翻訳開始 / グルタミン / 次世代シーケンサー |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞は外界の変化に応じ、翻訳と代謝をダイナミックに制御する。両者の協調的な制御は環境変化に適応するために必須であると考えられているが、その機構には不明な点が多い。これまでに、翻訳開始因子eIF4A1のノックアウト細胞をグルタミンが不安定な条件で培養すると、その増殖が顕著に低下する、という現象を見出していた。この現象の原因遺伝子を網羅的解析データから探索し、eIF4A1ノックアウトとグルタミン飢餓の両方の条件で翻訳が低下している遺伝子ODC1を特定した。本研究ではeIF4A1とグルタミンによる相乗的なODC1翻訳制御の詳細な分子機構と細胞増殖における意義を解明することを通じて、翻訳と代謝のクロストークをより深く理解することを目指す。 初年度である本年度は、まずODC1遺伝子が実際にグルタミン依存的な増殖の原因であるかどうか検討した。野生型の細胞を候補遺伝子の特異的阻害剤DFMOで処理したところ、グルタミンが不安定な条件における生育が低下し、候補遺伝子がグルタミン依存性の原因であることが示された。そこで原因遺伝子の翻訳制御をより詳細に解析するため、そのmRNAの5’側非翻訳領域(5’ UTR)を結合させたレポーター遺伝子を作成し、5’ UTRに様々に変異を導入することで翻訳制御に重要な配列モチーフを探索した。この遺伝子の5’ UTRには強固な二次構造とupstream open reading frame(uORF)が予想されていたが、その両方が翻訳に対して抑制的に働いていることがわかった。今後はこのmRNAと結合する因子を探索することで、この相乗的な翻訳制御の分子機構の全貌解明を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では翻訳開始因子eIF4A1と細胞外グルタミンによる翻訳と代謝のクロストークの分子機構と細胞増殖における意義を解明することを目的としている。eIF4A1のノックアウト(KO)細胞の生育は培地中のグルタミンが不安定な条件において顕著に低下するが、この現象の原因遺伝子としてポリアミン合成の律速段階を担う酵素の遺伝子ODC1が候補として同定されていた。初年度である今年度は、ODC1がeIF4A1 KO細胞の生育におけるグルタミン依存性の原因であるかどうか検討した。野生型細胞にODC1の特異的阻害剤であるDFMOを添加したところ、安定なグルタミン存在下では生育が低下しないのに対し、不安定なグルタミン存在下では生育が低下する様子が見られた。よって、ODC1の活性が低下するとグルタミン依存性が現れることが確認された。続いて、ODC1の翻訳がどのように制御されているのか解析した。ODC1の5’ UTR(非翻訳領域)には二次構造とuORF(upstream open reading frame)が予想されていた。これらに様々に変異を導入してレポーターアッセイを行ったところ、二次構造とuORFの両方がODC1の翻訳に対して抑制的に働くことが明らかとなった。また、eIF4A1 KO細胞では二次構造もuORFを欠損してもほとんど翻訳は上昇せず、これらの配列による翻訳抑制はeIF4A1依存的であることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はODC1の翻訳制御の分子機構をより詳細に解析するため、ODC1 mRNAに結合する因子の同定を行う。相補的なガイドRNAにより目的のRNAに特異的に結合しRNA分解を行うCas13タンパク質に点変異を導入し、RNA結合能のみを残したdCas13を用いて内在性のODC1 mRNAを精製し、質量分析により結合タンパク質を網羅的に同定する。そして同定された因子についてノックダウンを行い、ODC1の翻訳の変動を解析する。Cas13は様々な種類があり、現在適切なCas13を選択するための条件検討と組換えタンパク質の精製を進めている。また、ODC1の低下によるポリアミンの減少が増殖低下の原因であるならば、ポリアミンを増加させることで回復されることができると考えられる。培地中へのポリアミン添加やポリアミン合成に関わる因子の過剰発現などを通じて、不安定なグルタミン存在下における細胞増殖を検討する。また、研究室所有の様々ながん細胞を用い、DFMOによるODC1阻害の程度と不安定なグルタミン存在下の細胞増殖の関係について調べることで、この現象ががん治療につながる可能性について検討する。
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Research Products
(10 results)