2021 Fiscal Year Research-status Report
RecAファミリーリコンビナーゼによるヘテロ二重鎖形成機構の原子分解能での理解
Project/Area Number |
21K15050
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
伊藤 健太郎 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 特任助教 (60837128)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 相同組換え / RecAファミリーリコンビナーゼ / Rad51 / Dmc1 / Swi5-Sfr1 |
Outline of Annual Research Achievements |
相同組換えの中心的な反応は進化的に保存されたRecAファミリーリコンビナーゼによるDNA鎖交換反応である。この反応では、まずリコンビナーゼが単鎖DNAと結合した核酸・タンパク質複合体を形成し、この複合体がドナー二重鎖DNAを捕捉してさらに高次複合体を形成して、その内部で相同配列の検索とDNA鎖の交換を行う。また、真核生物のRecAホモログであるRad51とDmc1では、この反応を完遂するために様々な補助因子を必要とする。そのため、相同配列検索とDNA鎖交換の分子機構、補助因子によるRad51とDmc1の活性化機構はいまだ解明されていない。 そこで本申請研究では、申請者が確立したDNA鎖交換反応のリアルタイム解析系、多数のRad51とDmc1リコンビナーゼの変異体コレクションとクライオ電子顕微鏡観察を組み合わせて、この分子機構を原子分解能で理解することを目的としている。 現在までにスクリーニングによって、Swi5-Sfr1複合体との遺伝学的相互作用が特異的に欠損しているRad51変異体の同定に成功し、この変異体を解析した結果Rad51のATP加水分解活性とSwi5-Sfr1の機能が密接に関係していることを明らかにした。一方でRad51とDmc1によるDNA鎖交換反応リアルタイム解析から、両方のリコンビナーゼの補助因子として働くSwi5-Sfr1複合体が全く違うメカニズムで2つのリコンビナーゼの活性を制御していることを明らかにした。また、クライオ電子顕微鏡によりRad51-単鎖DNA複合体の高解像度の構造を決定することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに主に2つの成果が得られた。 (1)Swi5-Sfr1によるRad51の活性化機構:スクリーニングによってSwi5-Sfr1との遺伝学的相互作用に特異的に欠損のあるRad51変異体を同定した。生化学的な解析から、この変異体はATP加水分解が野生型に比べ著しく遅くなっており、Swi5-Sfr1存在下でも野生型のようにATP加水分解が促進されなかった。さらにリアルタイム解析から、この変異体ではドナー二重鎖DNAを捕捉して反応中間体を形成できるが、中間体が最終産物に変換されず蓄積し、Swi5-Sfr1を添加しても野生型のように中間体の解消が促進されなかった。これらのことからSwi5-Sfr1複合体はRad51のATP加水分解を促進することでDNA交換の中間体解消を促進していることが明らかとなった。 (2)Swi5-Sfr1によるRad51とDmc1の活性化機構の違い:2つのリコンビナーゼが単鎖DNA上にフィラメントを形成する過程とDNA鎖交換反応をリアルタイムで解析し、それぞれのリコンビナーゼに対するSwi5-Sfr1の効果を解析した。その結果、Swi5-Sfr1はRad51のフィラメント形成を促進しないが、(1)で述べたようにフィラメント形成後にRad51のATP加水分解活性を促進して反応中間体解消を促進した。一方で、Dmc1は単独では単鎖DNA結合能が弱く、Swi5-Sfr1によってフィラメント形成が強く促進された。しかし、フィラメントを十分形成させた条件でDNA鎖交換反応を観察したところSwi5-Sfr1添加しても反応の進行に影響は見られなかった。また、先行研究よりSwi5-Sfr1はDmc1のATP加水分解活性を促進しない。これらのことから、Swi5-Sfr1はRad51の時とは違いDmc1のフィラメント形成の過程を正に制御することで鎖交換反応を促進していた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに真核生物の2つのリコンビナーゼRad51とDmc1の酵素学的解析は大きく進展した。そこで令和4年度はクライオ電子顕微鏡による構造解析に力を入れて、特に2つのプロジェクトを推進する。 (1)Rad51-またはDmc1-単鎖DNAフィラメントとSwi5-Sfr1の複合体解析:酵素学的解析からSwi5-Sfr1によるRad51とDmc1の活性化機構には大きな違いがあった。この違いの分子基盤を明らかにするためにRad51-またはDmc1-単鎖DNAフィラメントとSwi5-Sfr1の複合体の構造をクライオ電子顕微鏡で観察する。現在までにRad51-単鎖DNAフィラメントの構造を高解像度で決定することに成功した。現在はフィラメントとSwi5-Sfr1の複合体の観察条件を検討している。 (2)Rad51-DNA3本鎖複合体の解析:(1)のプロジェクトの応用でDNA鎖交換反応の際の相同DNA配列検索と鎖交換の分子機構を明らかにするためにRad51-単鎖DNAフィラメントがドナー二重鎖DNAを捕捉してRad51-DNA3本鎖複合体の構造をクライオ電子顕微鏡で観察する。現在までに申請者はDNA鎖交換反応でドナー二重鎖DNAを捕捉して中間体形成後、中間体内部で鎖が交換されて新たにヘテロ二重鎖が形成される過程が特異的に欠損したRad51変異体を同定し報告している。そこで、この変異体を用いて反応中間体内部でヘテロ二重鎖が形成される直前の構造を観察することを目指す。
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Causes of Carryover |
令和3年度はコロナ禍の影響で出張制限あり共同研究先で電子顕微鏡観察のための条件検討ができず、電子顕微鏡の使用料に予定していた分の研究費を使用しなかった。また、同上の理由で学会がオンライン開催されたための旅費として予定していた研究費を使用しなかった。この繰越金を現在までに得られた成果を論文発表する際の投稿料に使用する予定である。
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