2022 Fiscal Year Research-status Report
重水素化支援中性子小角散乱と超遠心分析の複合解析による時計蛋白質複合体の構造解析
Project/Area Number |
21K15051
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
守島 健 京都大学, 複合原子力科学研究所, 助教 (40812087)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 時計タンパク質 / X線小角散乱 / 中性子小角散乱 / 超遠心分析 / AUC-SAS |
Outline of Annual Research Achievements |
Kai時計タンパク質の概日振動の制御機構を理解するためには、3種類のKaiタンパク質(KaiA, KaiB, KaiC)が形成する複合体の形成メカニズムや構造を明らかにする必要である。本研究では特に、リン酸化亢進に重要な役割を果たすKaiA-KaiC複合体(AC複合体)の形成挙動とその構造を解明することを目的としている。溶液中での構造を解明するために、超遠心分析(AUC)とX線及び中性子小角散乱(SAXS及びSANS、総称してSAS)を組み合わせたAUC-SAS法を用いて、KaiAとKaiCの解離会合平衡下でのAC複合体のみに由来した散乱データを選択的に取得する。さらに、KaiAあるいはKaiCの重水素化ラベルを用いたSANS測定により、複合体の一部を散乱データ上で不可視化して、AC複合体の部分構造を解明し、AC複合体がリン酸化を亢進するメカニズムの詳細に迫ることを目指している。 初年度(2021年度)は、非変性質量分析(Native-MS)とAUCによるAC複合体の形成条件検討を詳細に行い、会合数の化学量論比や解離定数を明らかにした。得られた知見をもとに、SAXS測定で得られた溶液散乱データを、AUC-SAXS法によって成分分離し、AC複合体のみに由来するSAXSプロファイルを取得することに成功した。2年目(2022年度)は、重水素化ラベルKaiA及びKaiCを用いた逆転コントラストマッチングSANS測定とAUC-SASを組み合わせることによって、AC複合体中のKaiA及びKaiCに由来する散乱プロファイルを取得することに成功した。現在は上述のSAXS及びSANSプロファイルと計算機シミュレーションを組み合わせることで、溶液中のAC複合体の構造・ダイナミクスの解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度には、非変性質量分析(Native-MS)と超遠心分析(AUC)によってリン酸化状態依存的なAC複合体の形成挙動を解明した。この知見は、SAXS及びSANSデータからAC複合体及びその部分構造を抽出するために重要な基礎データである。実際にこのデータを用いて、AUC-SAXS法によってAC複合体のみに由来する散乱プロファイルの取得に成功した。続いて2022年度は、中性子散乱測定のためにKaiAとKaiCの重水素化に取り組んだ。培養条件の検討と質量分析(MALDI-TOF-MS)による分子量検定によって、重水素化が72%(重水溶媒との散乱コントラストがゼロになる重水素化率)に厳密に制御されたKaiA、KaiCを作成することに成功した。この試料を用いて、JRR-3(茨城県東海村)のSANS-U、SANS-J及びInstitut Laue-Langevin (フランス) のD22を用いて逆転コントラストマッチングSANS測定を行った。得られたSANSプロファイルを、AUCの情報を用いて成分分離することで、AC複合体中のKaiA及びKaiCに相当する散乱プロファイルの取得に成功した。COVID-19による影響で最終年度である次年度にも海外での中性子散乱実験の予定を残しているが、所属機関で遂行可能な分子動力学計算とそれを用いた構造探索は、予定よりも早く着手しているため、全体として研究計画の遅れは無い。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、ここまでで得られた「AC複合体全体の散乱プロファイル(SAXS)」と、「AC複合体中の部分散乱プロファイル(SANS)」を共に再現する構造・ダイナミクスの探索を行う。具体的には、AC複合体の大きな構造揺らぎを再現するために粗視化分子動力学(CG-MD)シミュレーションを行い、構造・ダイナミクスのモデルを構築する。これまで、KaiAとの相互作用が比較的強い低リン酸化状態模倣KaiC変異体を用いて上記の方法論の確立を行ってきたが、今後は高リン酸化状態模倣KaiC変異体、及び野生型KaiCを用いて同様に散乱プロファイルの取得と構造・ダイナミクスの探索を行う。最終的には、KaiCの様々なリン酸化状態における構造とダイナミクスの差異を解明することで、概日時計システムの中でどのようにリン酸化が制御されているかを明らかにすることを最終目標とする。
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Causes of Carryover |
COVID-19による影響で海外での中性子小角散乱実験が延期となり、重水素化ラベル試料の作成に必要な試薬の購入が後ろ倒しとなっていた。これらの試薬は2022年度から順次購入し重水素化ラベル試料の作成に着手しているが、最終年度である次年度にも試料作成と中性子散乱実験の予定を残している。そのため、次年度への繰越額が生じている。ただし、所属機関で遂行可能な分子動力学計算とそれを用いた構造探索は、予定よりも早く着手しているため、全体として研究計画の遅れは無い。
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[Journal Article] 時計タンパク質複合体の構造解析を通して明らかとなった中性子小角散乱法の強み2022
Author(s)
柚木康弘, 松本淳, 守島健, Anne Martel, Lionel Porcar, 佐藤信浩, 與語理那, 富永大輝, 矢木真穂, 井上倫太郎, 河野秀俊, 矢木宏和, 加藤晃一, 杉山正明
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Journal Title
波紋
Volume: 32
Pages: 158-164
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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