2021 Fiscal Year Research-status Report
生物界の垣根を超えた化学走性物質による回転制御機構の解明
Project/Area Number |
21K15062
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
木下 佳昭 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 基礎科学特別研究員 (30879846)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アーキア / 回転運動 / 化学走性物質 / 方向転換 / CheY / ゴースト / 精製タンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
アーキアは真核生物・バクテリアと共に生物界を構成する生命体である。一部のアーキア は遊泳運動を示すことが知られており、この運動はアーキアべん毛という分子機械の回転運動により駆動される。アーキアべん毛はバクテリアべん毛とは遺伝子的な相同性がなく、エネルギー源に関しても、ATP駆動型の回転モーターであることが我々のグループにより実証されている (Kinosita et al., PNAS, 2020)。興味深いことに、構成タンパク質・エネルギー源が全く異なるにも関わらず、アーキアべん毛の回転方向制御は、バクテリアべん毛の回転方向制御に利用される化学走性物質を用いて行われる。アーキアはタンパク質の普遍性・多様性・進化を理解する上で格好の 研究対象であり、本研究当初の目的は回転制御機構の普遍性について議論することであった。
上記目的を達成するために、今年度は化学走性物質であるCheYの精製系を立ち上げた。まず大腸菌を宿主に、高度好塩菌アーキアのCheYのリコンビナント作製を行った。可溶化領域にCheYのバンドが見られ、収量もマイクロモーラーオーダーであり十分であった。ゴーストと呼ばれる透過性の残留構造に対して、精製したCheYを添加し、べん毛の回転運動を観察した。しかしながら、CheYを添加しても、方向転換は確認されなかった。一方で、アーキアを宿主にCheYのリコンビナントを取得し、同様の実験を行った所、反時計方向から時計方向への反転運動が確認された。本研究はIn vitroとin vivo研究の融合であり、来年度以降に、回転制御機構の定量的な解析を期待できる。将来的には、バクテリア由来のCheYでアーキアべん毛の回転運動を制御できる可能性も考えられ、生物界の垣根を超えた回転制御機構の理解を深化できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は化学走性物質であるCheYの精製系を立ち上げた。まず大腸菌を宿主に、高度好塩菌アーキアのCheYのリコンビナント作製を行った。可溶化領域にCheYのバンドが見られ、収量もマイクロモーラーオーダーであり十分であった。ゴーストと呼ばれる透過性の残留構造に対して、精製したCheYを添加し、べん毛の回転運動を観察した。しかしながら、CheYを添加しても、方向転換は確認されなかった。一方で、アーキアを宿主にCheYのリコンビナントを取得し、同様の実験を行った所、反時計方向から時計方向への反転運動が確認された。
上記の実験により、外部からタンパク質をゴーストに印加による回転制御ができることが実証された。しかしながら、その発見頻度は50匹に1匹程度であり、非常に効率が低い。可能性としては、CheY単体ではなく他の分子の相互作用が必要なことが考えられる。そこで、CheYを大量に発現した株を破砕し、その全てをゴーストに添加することにした。その結果、回転運動の1方向性は減少し、ふらつくものが多く見られた。これは間接的にであるが、細胞内の他のタンパク質がアーキアべん毛と相互作用し、回転運動を制御している可能性が考えられる。しかし、本実験系は夾雑物が多く、どのタンパク質が相互作用しているかについては依然不明である。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度以降の実験として、下記2点を重点的に行う。 1. 方向転換を頻繁に引き起こす株を用いて、従来の回転アッセイ 2. CheY以外のタンパク質の精製系を立ち上げ、回転制御を駆動する物質の探索
1に関しては、アーキアべん毛のモーター部位に点変異を導入することで、回転の方向転換が頻繁に変化する株を得ている。この株のゴーストに対して、精製したCheYを添加することで、生細胞と同様に頻繁な方向転換が引き起るか確認する。 2に関しては、CheY以外にCheFやFlaDといったタンパク質の精製系を立ち上げる。既に、プラスミドの作製並びに発現チェックは終えており、可溶化領域にマイクロモーラー程度のタンパク質を取得できている。来年度はCheYと上記のタンパク質を合わせて添加し、回転運動が頻繁に起こる条件を探索し、回転制御機構の理解を深化する。
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Causes of Carryover |
今回6000円程度の残額が残ってしまったが、目的使途に見合った試薬がなかったためである。今年度予算と合算し、ビオチン試薬等の購入予算に充てることにする。
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