2021 Fiscal Year Research-status Report
オミクスによるセントロメア機能とゲノム多様性の研究
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21K15064
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 裕太 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特任助教 (10897044)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ゲノム / セントロメア / 遺伝的多様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実施計画の第一段階として、セントロメア・ゲノム情報の解析パイプラインを作成した。研究用に広く一般に利用され、かつ、一般に入手可能な細胞を研究対象試料である日本人由来B細胞株DNAを高精度長鎖DNA解読技術(HiFi)により解析したデータを対象に処理を進めた。 まず、繰返し配列の祖先形を探索することでセントロメア領域に含まれるDNA配列を収集し、次に、収集された配列群のサンプル間の比較により、多様性・多型を示すDNA配列特徴を網羅的に分析した。セントロメアDNA配列の多様性には、先行研究で明らかにされているような代表的な配列の繰返し数の多様性(セントロメア領域の全体の長さに関わる多様性)の他、ゲノム中の頻度が十分に小さく位置特異的と考えられる部分配列(低頻度の構造変異)の多型も含まれていた。 このような多型情報をもとにサンプルの類似度を解析・可視化することで、複数の染色体で識別可能なハプロタイプの存在が示唆された。これにより「セントロメアの遺伝子型(ジェノタイプ)」を定義できる可能性が開かれたので、上記の知見と合わせて現在は論文投稿に向けて準備を進めている。 また2021年度はセントロメアに特異的なヒストンタンパク質の解析(エピゲノム解析、ここではCENP-Aを標的としたChIP-seq)に向け、予備実験を実施した。実験プロトコルには依然として改善の余地があるが、2022年度から本格的なデータ取得を始めるための有用な知見が得られている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画の第一段階として、セントロメア・ゲノム情報の解析パイプラインはほぼ完成し、データの解析に進んでいる。解析を通して、セントロメアにおいて多様性・多型を示すDNA配列特徴を網羅的に分析することで、セントロメアDNA配列の多様性には、先行研究で明らかにされているような代表的な配列の繰返し数の多様性(セントロメア領域の全体の長さに関わる多様性)の他、ゲノム中の頻度が十分に小さく位置特異的と考えられる部分配列(低頻度の構造変異)の多型も含まれることが分かった。これは先行研究等から予想できる結果ではあるが、エピゲノム、トランスクリプト解析までを視野にいれる本研究の基礎として十分に活用できるデータベースが得られたといえる。また、このような多型情報をもとにサンプルの類似度を解析・可視化して複数の染色体で識別可能なハプロタイプの存在が示唆されたことは、17番染色体で知られているようなエピアレル(動原体形成部分である機能的セントロメアが、異なる配列に生じること)が他の染色体にも発見できるという期待につながる。この点も、エピゲノム・トランスクリプト解析を進める前向きな動機をより補強するものである。CENP-A ChIP-seq の予備実験を実施することができ、次年度(2022年度)より本格的なデータ取得を開始できる見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
1.ゲノム解析:セントロメアDNA配列における多型マーカーは、情報を整理し本年度の早い時期に論文の発表を目指す。この1年来、長鎖DNA解読技術の進展により国際コンソーシアムによるセントロメアを含めたヒトゲノムの(再)完全解読と解析が急速に進んでいるので、セントロメア多様性の分析という観点から貢献を目指す。 2.エピゲノム解析:セントロメアに特異的なヒストンタンパク質 CENP-A による ChIP-seq 解析では本格的なデータの取得を開始するので、ゲノム部分の解析と統合して機能的なセントロメア領域の塩基配列特徴を同定する。複数サンプル間で解析を行うことで、機能的セントロメアが特定の塩基配列上に安定的に形成されるか、異なる特徴の塩基配列上に選択的に形成されるかを調べることができる(後者の例として知られる17番染色体の例を敷衍し、網羅的な解析を目指す)。このときに必要となる、セントロメア繰返し配列中で可能な限り特異度を高めた解析アルゴリズムを設計する。 3.トランスクリプト解析:セントロメア繰返し配列からの転写産物の解析に適した実験プロトコルの検討を進める。2023年度から本格的なデータ取得と解析を開始することを目指し、本年度中の予備実験の実施を図る。
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