2021 Fiscal Year Research-status Report
ナメクジウオの種間交雑において発生の安定化をもたらす分子メカニズムの解明
Project/Area Number |
21K15106
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
小野 廣記 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 助教 (40867602)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 遺伝子発現解析 / フロリダナメクジウオ / 種間交雑 |
Outline of Annual Research Achievements |
生物の形態的な多様性は、発生時における遺伝子発現の違いによってもたらされる。しかし、生物種間のどのような遺伝的違いが発生の違いを生み出し、形態的な違いを反映されているのかは不明な点が多い。そこで本研究では、形態的に異なる2種類のナメクジウオの種間交雑を通して、ハイブリッド個体の形態形成における2種類の親となる種類の遺伝子発現機構を明らかにしようとしている。本研究に用いるフロリダナメクジウオとオナガナメクジウオの推定分岐年代は1億2000万年から1億6000万年前と非常に古く、予備実験としてBUSCOの解析から得られたシングルコピーの相同遺伝子10個(ランダムに選出)の塩基配列は11%から17%の違いが見られたことから、発現している遺伝子の由来する親種の判別が可能である。さらにナメクジウオのハイブリッドは稔性のある成熟個体まで育てることができ、変態・成熟といった発生上極めて重要なイベントで遺伝子発現を調節する分子機構を解析できるメリットがある。 令和3年度はハイブリッド個体の作成に必要なオナガナメクジウオを得るため、沖縄県中城湾で採集を行う予定であったが実施できていない。なお、フロリダナメクジウオは研究室内にて飼育継続している。また、フロリダナメクジウオの成熟を誘起するため、低温(17度)での飼育を行なっていたが飼育個体のコンディションが下がり生殖腺の発達が見られなかったため、通常温度(24度)での飼育を三ヶ月行い飼育個体の調子を上げた後に、改めて低温下にて飼育を開始したところ成熟が促された。 また、コンピュータ上で遺伝子発現解析に必要な解析プログラムの構築を前倒しで行い、公共のデータベースに登録されているシーケンスデータやリファレンスゲノムを用いて解析テストを実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和3年度はフロリダナメクジウオとオナガナメクジウオの種間交雑種を作成し、ハイブリッドの胚を得る予定であったが、オナガナメクジウオを得ることができなかった。そのため、フロリダナメクジウオの受精卵を得て発生時における遺伝子発現の挙動を明らかにしようとしたものの、成熟個体が思ったように得られなかった。そのため、成熟誘起をするために通常温度での飼育に切り替え、飼育個体のコンディションを上げたのちに改めて成熟誘起を促した。水温気温ともに安定する11月から低温飼育を再開し、成熟個体を得ることができている。 令和4年度以降に実施する予定であった、コンピュータを用いた遺伝子発現解析を行うため、解析に用いるプログラムの構築を行った。特にRNA-seq解析において、リードのマッピングに必要なHISAT2、STAR、遺伝子発現量の算出に必要なStringTieやRSEMを用いた解析は遺伝研のスーパーコンピューターシステムを利用するため、公共のデータベース(USCS Genome BrowserやNCBI)に登録されているフロリダナメクジウオのゲノムデータやRNA-seqデータを用いて構築したプログラムのテストランを行い、データ解析ができることを確認している。 本年度実施する予定であったハイブリッド個体からのRNA-seqデータの取得が進んでいないことから、進捗は遅れているものの、解析プログラムの構築を前倒しで行ったため、やや遅れているとの評価に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は現在成熟が誘起されたフロリダナメクジウオをヒートショックにて放卵・放精を促し、目的のステージごとにRNAを抽出してRNA-seq解析を実施する。オナガナメクジウオの採集も本年度中に実施する予定である。ハイブリッドの作成が出来次第、ステージごとのRNA抽出、並びにハイブリッドの幼生における表現型のバラツキや成熟に至る個体数の計測など、統計学的な解析を実施する予定である。
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Causes of Carryover |
オナガナメクジウオのサンプリングのため沖縄県へ行く予定であったが、令和3年度は出張ができなかった。また、オナガナメクジウオのサンプルが入手できなかったためRNA-seqが行えず次年度使用額が生じた。令和4年度以降はサンプリングを行い、RNA-seq解析は外注で行うことを予定しているため、そのシーケンス費用として使用することを計画している。
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