2021 Fiscal Year Research-status Report
複数の上流ORFが奏でる臨機応変なショ糖感知機構の解明
Project/Area Number |
21K15114
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山下 由衣 北海道大学, 農学研究院, 助教 (40803383)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ショ糖応答 / uORF / 転写後遺伝子発現制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
真核生物の約半数のmRNAには5’非翻訳領域に小さなORFである上流ORF (uORF) が存在する。uORFの数や配置によって,下流に位置する「主要ORF」の発現を様々に制御する。シロイヌナズナのS1-bZIPファミリータンパク質は細胞質のショ糖濃度を感知して,糖とアミノ酸代謝を調節する機能を持つ転写調節因子である。本研究は,S1-bZIPファミリーmRNAがもつ多面的なショ糖感知機構の解明,すなわち個々の遺伝子における臨機応変なショ糖応答性に着目する。このために,本研究では,ショ糖感知能をもつSucrose-Sensing (SS)-uORFの使用頻度の着眼点から研究を遂行している。①S1-bZIPファミリーのmRNAには,シス因子としてSS-uORF以外にもuORFが存在する。今年度は,SS-uORFの上流のuORFがSS-uORFの使用頻度を調節している可能性が示された。②また,様々な生物で,細胞内では翻訳因子のリン酸化状態が変化することで,mRNAの翻訳動態は大きく変化することが報告されている。そこで,本研究では本制御にトランスに作用する因子としての翻訳因子にも焦点をあてている。本年度は,植物体内での翻訳因子のリン酸化による状態変化を検出する実験系(薬剤処理,タンパク質解析法)を確立した。③次年度以降に予定している,栽培時の栄養条件を変化させての,シス因子,トランス因子の解析のための予備実験として,シロイヌナズナの生育解析を実施した。個体のサイズや形態に基づき,栄養条件のステージゲートとなる条件について示唆を得られ始めており,次年度以降の解析に適用する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
真核生物の約半数のmRNAには5’非翻訳領域 (5’UTR) に小さなORFである上流ORF (uORF) が存在する。uORFの数や配置によって,下流に位置する「主要ORF」の発現を様々に制御する。シロイヌナズナのS1-bZIPファミリーのmRNAに保存された,Sucrose-Sensing (SS)-uORFと名付けたuORFは,翻訳停滞を介してショ糖を感知する能力をもつ。S1-bZIPファミリー転写因子は,ショ糖に応答して糖とアミノ酸代謝を調節する機能をもつ。本研究は,S1-bZIP ファミリーmRNAの異なるショ糖応答性をもたらす分子機構の解明を目的とする。 ① シス因子の関与: S1-bZIPファミリー内に共通して存在するSS-uORFの上流のuORFについての機能解析を実施した。上流のuORFの有無により,SS-uORFの使用頻度が変化することが明らかになった。また,これに伴い,主要ORFの翻訳も影響を受けることが示された。 ② トランス因子の関与: 翻訳因子のリン酸化阻害剤の処理条件の検討を実施した。薬剤の処理時間,および培養方法を変化させて検討した。翻訳因子のリン酸化状態の評価のために,リン酸化認識抗体を入手し,ウエスタンブロットによる検出条件の最適化に成功した。 ③ ショ糖以外の生理条件と組織細胞特異的制御: シロイヌナズナの栽培時にショ糖以外の栄養条件を様々に変化させ,シロイヌナズナの生育解析を実施した。生育状態(個体のサイズや形態)から栄養欠乏下での生育抑制と,翻訳因子の状態変化を紐づけて考察するための基礎データを取得した。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き,①シス因子の関与,② トランス因子の関与,③ ショ糖以外の生理条件と組織細胞特異的制御,の3方向から多角的に研究を遂行する。 ① シス因子の関与: SS-uORFの上流に存在するuORFについて,全S1-bZIPファミリー内で横断的にその効果を比較する。これまでは,任意のmRNA配列においてuORFを破壊した効果を解析してきたが,今後はS1-bZIPファミリー間での配列の部分的な交換によるキメラ配列を作成しその効果を検証することで,上流のuORFの作用機序について示唆を得る。また,SS-uORFにオーバラップしたuORFもしくは下流に存在するuORFについても解析を進める。 ② トランス因子の関与: 典型的翻訳因子については,令和3年度に着手できなかったものについて,リン酸化検出の条件検討を令和3年度と同様の方法(薬剤処理とウエスタンブロット)で実施する。非典型的な翻訳因子については,欠損株の候補株を入手し,欠損変異の系統を確立する。さらに翻訳量解析により,細胞全体の翻訳への影響を評価する。 ③ ショ糖以外の生理条件と組織細胞特異的制御: 令和3年度から継続して,様々な栄養条件下で生育させたシロイヌナズナの生育解析を実施する。さらに,明暗条件を変化させた解析も実施し,強光やショ糖飢餓時の応答の解析を開始する。個体のサイズや形態に基づき,栄養条件のステージゲートとなる条件を絞り込み,①シス因子,②トランス因子の解析でのサンプルとして使用する予定である。
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