2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K15124
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
後藤 千恵子 神戸大学, 理学研究科, 学術研究員 (00792269)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 側根 / 側根形成 / 側根創始 / オーキシン / fwr / fsp1 / SUR2 / CYP83B1 |
Outline of Annual Research Achievements |
側根の発生は、根の内鞘細胞のうち一部が「側根創始細胞」としてオーキシンを受容し非対称分裂することで開始され、その後細胞分裂が繰り返されて側根原基が形成される。本研究では、オーキシンが生合成される部位とオーキシンが将来の側根創始細胞に隔離・蓄積される仕組みを明らかにすることで、側根創始の初期段階について理解を深めることを目的とした。
オーキシンが生合成される細胞の一つに根冠の細胞がある。根冠は、根端の先端で根冠組織の中央に位置するコルメラ細胞の一群とそれを取り囲む側部根冠の二種類の細胞群で構成される。本研究では、側部根冠が剥離する際、その剥離する細胞から主根内部の振動領域(後にオーキシン応答が上昇・安定して 側根発生元となる領域)へオーキシンが輸送されるという仮説を検証するために、根冠全体の剥離と振動領域におけるDR5:LUC 発現(オーキシン応答)を示す発光のタイミングが対応するかを調べる予定であった。しかし、共同研究者の詳細な観察結果により、根冠細胞の剥離は約38時間周期で起こっており(Goh et al., 2022, in press)、振動領域におけるオーキシン応答の周期(約6時間)とは大きく異なることがわかった。そのため仮説の検証には別の手段を考案する必要が出てきた。
オーキシンが側根創始細胞に隔離・蓄積されにくくなった変異体にfewer roots(fwr)がある。 fwr の表現型を抑圧する変異体のスクリーニングで単離されたfewer roots suppressor 1 (fsp1) fwrおよびfsp1の解析を行った結果、内鞘細胞でのオーキシン量が増加すると側根創始が安定して起こりやすくなることが示唆された。局所的なオーキシンの増減が、側根創始に影響を与えると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、「1.側根創始に必要なオーキシンの生合成が行われる細胞の特定」および「2.側根創始細胞にオーキシンが蓄積される仕組みの解明」を計画している。本年度においては、計画していた実験の具体的な結果の取得には至っていない。従って当初の計画そのものの進捗状況はやや遅れ気味である。しかし、以下の通り、本研究の計画時点では予期していなかった結果が fsp1 変異体の解析から得られた。
fsp1 は野生型よりも側根数が多い。また、側根がほとんど見られないfwrにfsp1の変異が加わると側根形成能が回復する。fsp1変異の原因遺伝子はインドールグルコシノレート生合成に関わる酵素であるCYP83B1/SUR2をコードする。CYP83B1/SUR2は内鞘細胞などで発現しており、欠損すると内生オーキシン量が増加する。本年度においては、根組織内でのオーキシン分布パターンを類推するために、DR5:LUC発現体の発光を観察した。DR5はオーキシン応答性の人工プロモーター、LUCはルシフェラーゼであり、ルシフェリン処理後に観察するため本実験系における発光はオーキシンへの応答を意味する。観察の結果、fsp1において、根端では野生型同様、発光輝度が振動していたのに対し、根の伸長領域では野生型に比べてDR5:LUCサイト(輝度の高い点で、輝度が安定した場合は将来側根出現部位となる)の消失頻度が低かった。このことから、fsp1では側根創始の最も初期に側根創始細胞候補が生じる頻度は正常であるが、その後の過程で側根創始細胞のアイデンティティの確立が安定しやすいことが示唆された。このことから、内鞘細胞由来のオーキシンが側根創始を微調整し得ると考えられる。
以上の結果が得られたため、総合すると、側根創始におけるオーキシン分布の制御機構について解明を目指す本研究はおおむね順調に進展している、と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、上記の「研究実績の概要」に記載の「根冠剥離時に側部根冠細胞からオーキシンが供給されるという仮説の検証」を除き、当初の計画を推し進める(以下1、2)。さらに、「現在までの進捗状況」に記載の当初予期していなかった結果をもとに、詳細な解析を進める(以下3)。 1.側根創始に必要なオーキシンの生合成が行われる細胞の特定:既知のオーキシン生合成遺伝子の発現を詳細に調べ、側根創始細胞での発現が見られたものに関しては変異体解析により側根創始・側根発生への関与を検証する。 2.側根創始細胞にオーキシンが蓄積される仕組みの解明:オーキシン排出輸送体PINsの細胞膜への偏在について、特に内鞘細胞に注目しながら観察し、特定のPINが側根創始に関与する可能性を探る。 3.側根創始が比較的安定しやすい変異体fsp1の解析:野生型およびfsp1/sur2におけるCYP83B1/SUR2の発現部位を組織レベルで経時的に観察し、その発現パターンと側根創始の関連について考察する。
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Causes of Carryover |
当該年度に学会発表で使用するノートPCを購入する予定であったが、購入を予定していた型番の在庫が注文時になかったことと、参加する学会年会が全てオンラインに変更され携行用PCの必要性がなくなったことから、購入を見送った。代わりに以前より購入を検討していたものの当該年度での購入は予定していなかった電子ノートを購入したが、ノートPCの方が高額なため予算が余り、次年度に使用することにした。次年度において、状況に応じてノートPCを購入するか、あるいは別の実験器具・消耗品類の購入に充てる予定である。
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Research Products
(3 results)