2022 Fiscal Year Research-status Report
細胞内共生前に獲得したDnaA非依存型ゲノム複製機構とその進化的意義の解明
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21K15142
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
大林 龍胆 静岡大学, 理学部, 助教 (90778333)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | DnaA / DNA複製 / 細胞内共生 / ゲノム倍数性 |
Outline of Annual Research Achievements |
すべての生物においてゲノムの複製は個を維持する上で必須であり、細菌ではDnaAという複製開始因子が特定領域からの複製を制御している。dnaA遺伝子はほぼ全てのバクテリアに保存されていることから、このDnaAによる複製開始制御機構はバクテリアが多様化する以前に成立し、バクテリアに共通のメカニズムであると信じられてきた。一方で、多くの共生細菌や共生細菌由来のオルガネラゲノムは、dnaA遺伝子をコードしていないことが近年のゲノム解析でわかっており、共生進化過程でDnaAに依存しない複製機構へと進化したことが示唆されるが、詳細な複製機構は全く明らかとなっていない。そこで本研究ではDnaAに依存しない新たな複製開始機構の解明を目指している。 本年度は複製関連因子の温度感受性株の取得を試み、その抑圧変異株の解析から複製開始因子のスクリーニングを試みた。まずdnaBヘリカーゼを標的として、ランダムに変異導入した株を作製した。そのライブラリーの中から、高温感受性を示す変異体(TS株)を3株取得した。次にこのTS株の温度感受性を抑圧するサプレッサー株の取得を試みた。その結果、TS1株から抑圧変異株を2株統取得することに成功した。このうち一方はTS変異がもとに戻るリバータントであったが、もう一方はTS変異は維持していた。 そこでこの抑圧変異株の変異を同定するために、全ゲノムシーケンス解析を実施した。その結果、ある一つの遺伝子にアミノ酸置換を伴う1塩基置換を同定した。この遺伝子はDNA結合能があることが予測される遺伝子であり、新たな複製関連因子である可能性が考えられ、現在詳細に解析中である。 またdnaA遺伝子を持たないシアノバクテリアは形質転換系が確立されていなかったが、本年度は接合を用いた遺伝子導入系を確立でき、プラスミドとして維持されていることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は遺伝学的アプローチにより複製開始関連因子のスクリーニングを目指した。その結果、温度感受性変異株、またその抑圧変異株を取得できただけでなく、その変異も同定でき、一つの候補因子をスクリーニングできたことは今後の大きな一歩となった。さらに、シアノバクテリアは複数コピーのゲノムを持つため、このような遺伝学的解析はほとんど例がないが、本研究結果からシアノバクテリアでも大腸菌、枯草菌同様に遺伝学的スクリーニングが可能であることが示されたことも大きな理由であり、今後いくつかの遺伝子に関しても同様の解析を行う予定である。 また、dnaA遺伝子を持たないシアノバクテリアをモデルにdnaA遺伝子を失った生理学的意義に迫る計画であったが、形質転換系がなくモデルとして扱い難かった。本年度はこのシアノバクテリアにおいて、形質転換系を確立でき、さらにdnaA遺伝子を導入し、その影響の検証を開始できたことは計画通りである。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は(1)サプレッサー変異により同定した因子の遺伝学、分子生物学的解析(2)ヘリカーゼローダーによる相互作用因子の解析(3)dnaAを持たないシアノバクテリアにおけるトランスクリプトーム解析により、複製開始関連因子の同定と、なぜdnaA遺伝子を失ったかの生理学的意義に迫る。 具体的には、(1)において同定した因子が本当に複製開始に関与するのかどうかを検証するために、欠損株の作製、またChIP解析やヘリカーゼとの相互作用解析などを実施する。(2)はヘリカーゼローダーから複製開始関連因子をスクリーニングする。(1)と同様に遺伝学的なスクリーニングは継続しつつ、プルダウンアッセイなどによりヘリカーゼローダーと直接相互作用する因子の探索を行う。(3)では本年度、dnaA遺伝子を持たないシアノバクテリアにおいて接合を用いた遺伝子導入系を確立した。そこで最終年度はこのシアノバクテリアにおいて、近縁種のdnaA遺伝子を発現させ、転写への影響や、様々な環境応答などを解析する予定である。また遺伝子導入はでき、プラスミドでは維持するものの、染色体への導入は確立できていない。そこで最終年度は今後のモデル化も見据え、染色体への遺伝子導入系も開発し、実際に同定した複製関連因子候補のノックアウトなどを目指す。
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Causes of Carryover |
本年度はトランスクリプトーム解析を予定していたが、遺伝子導入株の作製に時間がかかり、外注することができなかった。そこで次年度にトランスクリプトーム解析を実施する予定である。サンプル数は約30サンプルで、80万円程度を見込んでいる(1サンプル2万7千円)。 またこの解析用に1台PCを購入する予定であったが、解析が進んでいないため購入を見送った。そのため次年度に購入予定である。
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Research Products
(6 results)