2021 Fiscal Year Research-status Report
電気合成微生物活動仮説の検証:集積培養とオミクス解析で解明する新微生物代謝機能
Project/Area Number |
21K15156
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
鹿島 裕之 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(超先鋭研究プログラム), 研究員 (70780914)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 電気合成 / 光合成 / 化学合成 / 極限環境微生物 / 海洋微生物 / 微生物電気化学 / 現場反応実験 / バイオフィルム |
Outline of Annual Research Achievements |
地球における生命活動は、光合成と化学合成による1次生産で支えられていると考えられてきた。しかし近年、海底面近傍など酸化還元勾配が安定的に形成される環境場において、生命が利用可能な電気エネルギー(環境電流)が確認され、このような電気エネルギーを利用してバイオマス合成を行う電気合成微生物活動が予見されている。電気合成の実証は、生命の新たなエネルギー獲得様式の発見として期待されるが、明確な電気合成微生物活動の報告はほとんど無く、環境中での実態も未解明であるため、本課題においては、海洋環境を対象に電気合成反応を行う微生物の探索を行っている。 今年度は、沿岸海洋環境サイトにおいて、カソード分極させた電極を海洋中に設置し、電極からの電子供給を行うことで細胞外環境からの電子取込み能力を有する電気合成微生物の集積を狙う現場電気集積培養実験を実施し、有力な電気合成微生物候補の集積培養に成功した。そして、集積培養産物のメタゲノムシーケンスを行い、優占集団のMetagenome Assembled Genome(MAG)解析から、当該集団は外膜または細胞外に局在するマルチヘムシトクロムcタンパク質群を介して細胞外から取り込んだ電子と酸素を最終電子受容体としたエネルギー代謝を行い、カルビン―ベンソン回路によって炭酸固定を行う、電気合成代謝機構を有することが示唆された。これらはこれまでほとんど報告の無かった電気合成微生物活動について、有力な電気合成微生物候補の系統と代謝機構についての知見を提供するものと考える。 また、沿岸環境サイトに加えて、深海熱水域を含む複数の深海底環境サイトでの現場電気集積培養実験を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は沿岸海洋環境サイトでの現場実験を実施でき、そこで有力な電気合成候補微生物の集積に成功し、メタゲノム解析からそれら集積微生物集団の系統を特定し電気合成代謝機構を推定することができた。これは、これまでほとんど報告の無かった環境中で電気合成を行う微生物についての理解を前進させる成果であると考える。また、この微生物集団は16S rRNA遺伝子のアンプリコンシーケンス解析において、電極表面環境では高度に集積された(電極表明に形成された原核微生物群集の50%以上を占めた)一方、ガンマプロテオバクテリア綱に属する当該系統の近縁に培養株は報告されておらず、海洋環境(水塊および海底堆積物)においてもほとんど検出されていないことが明らかになった。このことは、天然の電気合成環境場では、現段階で私たちの理解が及んでいない微生物集団による電気合成活動が行われている可能性を示すものであると考える。 以上から、研究課題は順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでにMAGを得ることができた電気合成微生物候補集団について、同時に採取・保存していたRNA抽出サンプルを使ってメタトランスクリプトーム解析を実施し、当該集団の代謝、特に細胞外からの電子取込みと炭素固定に関する代謝の分子機構と活性について更なる情報を得る。 また、今年度に開始した深海底環境サイトでの現場電気集積培養実験サンプルを回収し、それらの解析を進める。深海底サイトでの実験においても電子供給依存的な特定集団の集積が確認された場合は、異なる環境サイト間での優占集団の系統・代謝機能を比較することで、環境と電気合成微生物活動の多様性について考察を試みる。
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Causes of Carryover |
今年度は新型コロナウイルス感染症の影響で、予定していた海洋環境サイトでの現場培養実験の計画を変更して行ったために次年度使用額が生じた。具体的には、宿泊出張を伴う複数の調査・現場実験計画が中止(次年度以降に延期)されたため、旅費と消耗品費を使わなかった。そして一通りの実験を実施できたのが勤務地近くの沿岸環境サイト1か所となり、メタゲノム解析を行うサンプル量が予定より大幅に少なくなったために受託解析でメタゲノムシーケンスを行う必要がなかったことから、このために計上していたその他の経費を使わなかった。今後は、新型コロナウイルス感染症に関する社会活動制限の緩和に伴い、延期していた調査・実験計画を実施し、そのために使用していなかった旅費・消耗品費・メタゲノム・メタトランスクリプトーム解析の受託解析費に経費を使う予定である。
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