2022 Fiscal Year Research-status Report
チョウの可塑的な休眠機構から紐解く環境要因と発生制御機構のクロストーク形成
Project/Area Number |
21K15165
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小川 浩太 九州大学, 比較社会文化研究院, 助教 (40733960)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 表現型可塑性 / ライフサイクル / 休眠 / 日周応答 / 越冬戦略 / 台風攪乱 / ビックデータ解析 / 統計的因果推論 |
Outline of Annual Research Achievements |
越冬戦略は生物の高緯度地域への進出/適応において極めて重要である。東洋区を中心に生息するツマベニチョウは亜熱帯域では食餌植物依存的に蛹休眠が誘導されるが、分布北限域の九州では日長依存的な蛹休眠を獲得している。本研究では本種の日長応答性の獲得プロセスの解明を目指し、移行帯にあたる琉球列島の本種の休眠戦略の研究を進めている。 本年度は飼育実験により、南琉球(八重山諸島)では本種の休眠性が完全に失われているが、中琉球(沖縄島)では休眠性を示す個体と示さない個体が混在し、九州では全個体が短日による休眠性を示すことを明らかにした。 また、これまでのフィールド研究により八重山諸島では季節性の台風による強風で秋にホストの落葉とそれに続く萌芽が誘導され、その萌芽(ラマスシュート)を利用することで、落葉性のホストを食樹としながらも非休眠で越冬を行うライフサイクルが獲得されていると予想されたので、蝶愛好家コミュニティに蓄積されたツマベニチョウの過去10年分の採集記録と気象データを利用し、個体群動態に台風等がどのように影響をあたえるか統計的因果推論により評価した。その結果、台風がツマベニチョウの発生パターンに大きく影響すること、そしてその影響の仕方は八重山諸島と沖縄島では異なること、八重山諸島では強風が個体数に影響を与えることなどが示された。 研究開始時点では、シンプルな休眠性の進化メカニズムを想定していたが、予測不能な環境攪乱が植物の季節性をマスクすることで、休眠性獲得にネガティブに作用していることを明確に示すことができた。研究開始時点の予想とは異なる結果であるが、進化生物学的に非常に示唆に富む結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究開始時には琉球列島を北上するにつれてツマベニチョウは段階的に休眠性を獲得したというシナリオに基づいて研究計画を立案したが、実際には八重山諸島では休眠性の喪失が生じており当初の予測よりも複雑かつ興味深い進化プロセスが存在することが判明した。 当初の計画ではリニアな変遷を予想していたため、一部実験計画・デザイン等の変更が必要となったもののより新規性の高い研究成果を得られていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、野外観察、飼育実験、ビックデータを用いた因果推論によって、八重山諸島ではランダムであるものの一定以上の頻度で襲来する台風によりホストや季節変化に対する選択圧がリラックスすることで休眠性が失われているが、沖縄島以北では再び休眠性が獲得されていることを科学的に証明できた。一方、琉球列島の本種の個体群構造(遺伝的構成)と休眠性(ライフサイクル)の関係については未解明であるので、今後は琉球列島および周辺諸国のツマベニチョウの集団構造等の解析を行う。
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Research Products
(7 results)