2022 Fiscal Year Research-status Report
シナプス前部からの直接パッチクランプ記録によるカンナビノイドの作用点の解析
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21K15189
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井下 拓真 京都大学, 理学研究科, 助教 (00880337)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 伝達物質放出 / カンナビノイド / プルキンエ細胞 / パッチクランプ法 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度は、近年同定された第三のカンナビノイド受容体(GPR55)が小脳プルキンエ細胞出力シナプスにおいてシナプス伝達を抑制することを明らかにした。また、シナプス伝達抑制の際に、シナプス前終末へのCa2+流入に有意な差は認められず、Ca2+流入以降の伝達物質放出の過程にこの受容体が影響することが示唆された。一方で、これまでよく調べられているカンナビノイド受容体(CB1、CB2)のアゴニストはプルキンエ細胞からの出力を変化させなかった。 今年度は、GPR55の内因性アゴニストやアンタゴニストを用いた実験を行い、プルキンエ細胞出力が実際にGPR55によって抑制されることを確かめた。また、小脳切片でも同様にGPR55がシナプス伝達を減弱させることを発見した。GPR55がシナプス伝達を減弱させるメカニズムとして、シナプス前終末の即時放出可能なシナプス小胞の総数をGPR55が減少させることを明らかにした。また、GPR55によるシナプス伝達減弱の程度はパッチピペット内液のEGTAの濃度には影響されなかった。これらの結果は、これまで予想されていたCB1、CB2がシナプス伝達を抑制する仕組みとは異なる、シナプス伝達調節の新しい仕組みの存在を示唆している。 一方で、CB2について免疫染色を行ったところ、CB2のシグナルが小脳プルキンエ細胞の細胞体や樹状突起には認められるが軸索にはほとんど認められなかった。そこで、CB2が確実に軸索に存在するようアデノ随伴ウイルスによってCB2を過剰発現させた。CB2過剰発現プルキンエ細胞ではCB2アゴニストがシナプス伝達を抑制した。このとき、シナプス前部へのCa2+流入が減弱しており、即時放出可能なシナプス小胞の総数には差が認められなかった。これらの結果により、Ca2+イメージングにより予測されていたシナプス伝達抑制のメカニズムを直接証明することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
GPR55によるシナプス伝達の抑制を発見することができた。また、その抑制メカニズムについて、候補となる変化を発見することができている。また、GPR55によるシナプス伝達抑制が培養細胞だけでなく小脳切片でも認められることが確認でき、新規のシナプス伝達抑制現象の発見とそのメカニズムについて多くのデータが集まっている。また、これまで予想されていたカンナビノイドによるシナプス伝達抑制のメカニズムについても、微小構造からのパッチクランプ記録によって直接的に証明することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
GPR55がシナプス伝達を減弱させる仕組みについて、その物理的な仕組みを明らかにする。現時点では即時放出可能なシナプス小胞総数がGPR55によって減少することが示唆されているが、その理由は不明である。考えられる原因としては、シナプス小胞とCa2+チャネルとの距離の変化や小胞のプライミング状態の変化、カルシウムセンサーの感受性の変化などがあり、それら複数の可能性の切り分けを行う。まずはシナプス前終末におけるCa2+アンケージングを行い、シナプス小胞とCa2+チャネルとの距離がシナプス伝達抑制に寄与しているか否かを検討する。その後、シナプス伝達抑制の理由となる可能性が高い分子(シナプス小胞とCa2+チャネルの間を取り持つ蛋白質や小胞のカルシウムセンサー蛋白質)について変異を加えるなどしてGPR55の影響を受けない変異体の作成を試みる。また、GPR55から即時放出可能なシナプス小胞総数の減少に至るまでの分子メカニズムを遺伝学・薬理学的手法を用いて検討する。
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Causes of Carryover |
研究室内で動物を共有し、必要以上の動物を使用しないなど動物購入費を節約することで支出を抑えることができた。また、近年同定されたためまだマイナーな受容体であるGPR55の特異的な作動薬、阻害薬を複数検討する必要があると想定していたが、質のいい試薬が入手できたため、その購入費も抑えることができた。それによって節約できた研究費は、GPR55抗体や分子メカニズムを検討するための試薬購入費として次年度に使用する予定である。
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