2021 Fiscal Year Research-status Report
蛍光寿命・異方性顕微分光による相分離液滴中のタンパク質周辺環境のラベルフリー解析
Project/Area Number |
21K15238
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
田原 進也 東北大学, 薬学研究科, 助教 (00783060)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 液-液相分離 / 無標識観測 / 自家蛍光 / タンパク質変性 |
Outline of Annual Research Achievements |
液-液相分離(LLPS)は均一な高分子溶液が濃度の異なる2つ以上の液相に分離する現象である。細胞内において核酸やタンパク質はLLPSを起こし、高濃度の生体分子を含む液滴を形成する。LLPSは生体反応制御に重要な役割を担うが、タンパク質の凝集を促進し、神経変性疾患等の原因となることも分かってきた。LLPSにより生成した液滴内部のタンパク質の物性や構造の理解は、生体反応制御や疾患発症機構の理解に重要である。本研究では液滴内部のタンパク質の構造を蛍光標識等を用いずに調べる手法として、自家蛍光寿命イメージングを提案する。 令和3年度は、紫外励起蛍光寿命イメージング装置を構築し、マチャドジョセフ病原因タンパク質ataxin-3のLLPS液滴の自家蛍光イメージングおよび寿命測定を実施した。Ataxin-3のトリプトファン(Trp)残基の蛍光を検出し、液滴の無標識観測に成功した。またTrpの蛍光寿命を観測することにより、水溶液中および液滴内におけるataxin-3周辺の疎水性の違いを検出した。さらにataxin-3の液滴は蛍光寿命の経時変化を示した。この変化からataxin-3は液滴内で多段階的に変性することが明らかとなった。以上のようにLLPS液滴内部のタンパク質構造変化を無標識で観測することに初めて成功した。Ataxin-3の凝集がマチャドジョセフ病の原因となることが示唆されていることから、本研究で得られた知見は本疾患の発症機構を解明するための重要な手がかりとなる。 さらに本手法を筋萎縮性側索硬化症関連タンパク質Fused in sarcoma (FUS)に適用したところ、LLPSによりFUSを構成するチロシン(Tyr)の蛍光寿命が変化した。これは液滴内におけるFUS分子間の特異な相互作用を反映していると考えられ、現在はその詳細を明らかにするための実験を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、紫外励起蛍光寿命イメージング装置を構築し、液滴内部のタンパク質のTrp蛍光寿命および異方性解消時間を測定することにより、タンパク質液滴内部の粘度などといった物性パラメーターを計測することを目指していた。計画通りに装置を構築し、液滴内部のataxin-3の蛍光寿命測定に成功した。計画当初の想定とは異なり、ataxin-3のTrpの蛍光寿命がLLPSおよび時間経過によって劇的に変化することが分かった。この蛍光寿命変化についてataxin-3の変異体を用いて精査することにより、液滴内部においてタンパク質が変性し、凝集を引き起こすことが明らかとなった。さらにこの手法をFUSにも応用し、LLPSを起こすとTyrの蛍光寿命が変化することも分かった。以上のようにタンパク質中の芳香族アミノ酸の蛍光寿命測定を行うことで、LLPS液滴中のタンパク質構造変化を詳細に追跡できることを実証できた。さらにLLPSとataxin-3の凝集との関連性が分かり、ataxin-3がマチャドジョセフ病を引き起こす分子機構について示唆が得られた。以上の成果について近日中に論文を投稿する。以上の進展から明らかなように、計画当初の想定以上の成果が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は本手法を用いて水溶液中と液滴内部のFUSの構造の違いを明らかにする。1,6-ヘキサンジオールやアルギニンなどを液滴試料に加え、Tyrの蛍光寿命を測定する。1,6-ヘキサンジオールは疎水性相互作用、アルギニンはカチオン-π相互作用を妨げることにより、液滴を解消すると考えられている。これらを添加した条件で蛍光寿命測定を行い、液滴の蛍光寿命と比較することで、液滴内部のFUSの分子内・分子間相互作用を明らかにする。また強い病原性を示すFUSの変異体の液滴を調製し、蛍光寿命測定を実施する。これにより液滴中の変異体と野生型のタンパク質構造の違いを議論する。 また本手法を用い、液滴内部のタンパク質と核酸との相互作用を検出する。Ataxin-3やFUSは特定の核酸やタンパク質と相互作用し、機能する。これらを添加した後のataxin-3やFUSのTrpやTyrの蛍光寿命変化を調べる。得られた結果から水溶液中および液滴中における分子間相互作用の違いを明らかにする。
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Causes of Carryover |
研究計画当初は、ataxin-3の変異体を調製するにあたり、相当な精製条件の検討が必要であると考えていたため、それに足る十分な培養・精製試薬の費用を見積もっていた。ところが野生型ataxin-3の培養・精製条件から大きな変更をすることなく変異体を調製することができた。このため、令和3年度において余剰額が生じた。一方、令和3年度にはFUSの液-液相分離においても興味深い結果が得られており、令和4年度はFUSの変異体研究を展開することを新たに計画している。また令和3年度に予定していた励起光源のドライバーの購入を令和4年度に延期した。前年度は他研究者から本ドライバーを貸与されていたが、令和4年度は本イメージング装置を用いた測定がさらに活発化するため、ドライバー購入が必須となる。このため、令和3年度の余剰額を令和4年度使用額として請求する。
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