2023 Fiscal Year Research-status Report
Application reserach on low-frequency Raman spectroscopy for identification of illegal drugs of abuse
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21K15250
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Research Institution | National Research Institute of Police Science |
Principal Investigator |
瀬川 尋貴 科学警察研究所, 法科学第三部, 研究員 (80778978)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ラマン散乱 / 覚醒剤 / 法科学 / 低振動数スペクトル / 結晶構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度の研究実績を大まかに分類すると以下の3点である。(1)測定系の構築と最適化、(2)高純度な覚醒剤結晶と不純物を含む覚醒剤結晶の低振動数ラマンスペクトルの測定、(3)第一原理計算を用いた覚醒剤の低振動数ラマンスペクトルの帰属。 (1)測定系については体積型ホログラフィックブラッググレーティングフィルターを利用した光学系の構築が完了した。実験スペースの関係でコンパクトかつシンプルな設計を余儀なくされたが、顕微鏡下で概ね10 cm-1までのスペクトルを取得可能な性能を有していた。 (2)前項で開発した装置を使用し、高純度な覚醒剤結晶の低振動数ラマンスペクトルを測定した。これとは別に、ラセミ体の覚醒剤結晶と、代表的な増量剤であるジメチルスルホンを含有し、固溶体を形成していると考えられる結晶を、不純物を含む覚醒剤結晶として測定し、スペクトルを比較した。その結果、ラセミ体および固溶体では結晶構造に変化があるためスペクトルが変化すると想定していたが、これらの試料から得られたラマンスペクトルは、マイナーバンドの有無を除いて高純度試料のものと概ね一致していた。したがって、不純物のジメチルスルホンやラセミ体であっても結晶構造の大きな変化はなく、マイナーバンドの有無により試料の純度を評価できる可能性が示された。なお、覚醒剤のラセミ体はコングロメレート結晶を形成することが分かっており、スペクトルの概観の一致は矛盾がないと考えられた。 (3)覚醒剤については低振動数領域のスペクトルの報告が見当たらなかったことから、第一原理計算を用いて振動モードの計算を行った。構造最適化では実験で得られた結晶構造を概ね再現することができたが、計算されたラマンスペクトルと実験で得たスペクトルの一致度は低かった。これは使用した擬ポテンシャルや交換相関汎関数よるものと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初は3年計画であったが、育児休業等や新型コロナウイルス感染症の影響で他の所掌業務のスケジュールが変則的となったため、当初の予定どおりエフォートを割くことができなかった。そのため、研究期間を1年延長した。
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Strategy for Future Research Activity |
覚醒剤原料のひとつであるメチルエフェドリンについて、開発した装置で低振動数スペクトルの測定を行う。メチルエフェドリンについては光学的に純粋な結晶とラセミ体の結晶で結晶構造が変化することが既に報告されている。そのため、これらの結晶から得られる低振動数スペクトルは大きな差異があると推測される。それぞれの結晶について、実験で得たスペクトルと第一原理計算で得たスペクトルを比較し、帰属を行う。また、光学純度を変化させた試料を調製し、スペクトルの変化を追跡する。
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Causes of Carryover |
先に述べたように、処々の事情から当初の研究期間の最終年度であった令和5年度中に実施しきれない実験が発生してしまったため、光学系の構築や得られたデータの解析のために使用する計画であった予算の一部について、使用することができなかった。使用計画として、第一原理計算を外部に委託して実施する際の費用や、解析用PCの調達費、光学系の機能拡張のための部品費として使用する予定である。
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