2021 Fiscal Year Research-status Report
ES細胞・iPS細胞の機能制御を可能とする新規荷電性培養基板の開発
Project/Area Number |
21K15357
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
廣田 聡 北海道大学, 化学反応創成研究拠点, 博士研究員 (20847181)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ES/iPS細胞 / ハイドロゲル |
Outline of Annual Research Achievements |
ES細胞やiPS細胞などの高度な多能性を持つ幹細胞は再生医療の基盤資源である。しかし、その維持や分化誘導は多種類の増殖因子を必要とし、高いコストや再現性、効率に課題が残されている。この問題を解決するため、本研究では従来にない視点で、新規培養基板を開発する。すなわち、表面電荷の制御可能な合成ハイドロゲルを用いて、ES/iPS細胞の幹細胞性や分化制御が可能な革新的培養基板を創出する。すでに、申請者は、未分化細胞と分化細胞では維持・増殖・分化に適した足場の電荷が異なることを見出している。そこで、NGSを用いた遺伝子プロファイルの解析により、電荷が幹細胞機能に影響する分子機構を明らかにしようと試みた。その結果、正電荷をもつ合成ハイドロゲル上で分化誘導をおこなった細胞の遺伝子発現プロファイルは、分化後の細胞よりもむしろ分化前の細胞の遺伝子発現プロファイルに類似していることが明らかになっていた。そこで、未分化状態が異なる細胞を用意し、各条件で培養したマウスES細胞と正電荷ゲル上のES細胞において遺伝子発現プロファイルにどのような違いが生じているかを詳細に検討した。その結果、正電荷ゲル上で分化抵抗性を示していた細胞は、Epiblast stem cells (EpiSCs)のようなPrimed型ではなく、むしろ未分化能の高いNaive型ES細胞に近い遺伝子発現プロファイルを示していることがわかった。今後は、遺伝子発現変化だけでなくプロテオーム解析などを行い、合成ハイドロゲル上で生じる細胞内の変化について体系的な理解を深めることで、幹細胞性を制御する新たなバイオマテリアルの創出に繋げる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究では、NGSで得られたデータを詳細に解析した。正電荷ゲル上で分化誘導した細胞が、分化の途中で停止した状態であることが推測されたが、どの未分化段階で停止もしくは維持されているのか不明であった。そこで、この細胞と一般的にマウスES細胞に用いられている培養方法で得られた細胞を比較し、どの未分化段階に近いのかを調べることにした。マウス多能性幹細胞には、未分化状態によって大まかに以下の3つの培養方法がある。MEKi、GSK3iとLIFを加えることでNaive型を維持できる方法(2i/LIF)、Activin AとbFGFを加えることで、Naive型における分化能の一部を失ったEpiSCs(Prime型)で維持する方法(Actvin/bFGF)、そしてこの2つの状態が混在する状態で維持されるFCSとLIFを加えた方法(FCS/LIF)がある。今回、これらの細胞と正電荷ゲル上における細胞とを比較することで、培養基板の電荷がどのような遺伝子群に影響を与えているかを検証した。その結果、Wnt3やSpry1などの分化に関わるシグナル因子群の発現パターンが2i/LIFやFCS/LIFで培養している細胞と類似していることが明らかになった。これにより、正電荷ゲル上の細胞が分化に対して抵抗性を示しているメカニズムの一端として、分化を促進する因子の発現が低下しており、分化シグナルが細胞内にうまく伝達していない可能性が示唆された。このように、これまで全く未知であった培養基板の荷電状態が幹細胞性に影響を与えるメカニズムの解明につながる新たな知見を得たことから、着実に研究が進展しており、今後さらに詳細な分子機構の解明が見込まれることから、当該年度の研究は、「概ね順調に進んでいる」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように、本年度の研究ではハイドロゲル表面の荷電状態によって未分化状態が維持されるメカニズムの一部が、ゲルの表面電荷による分化シグナルの阻害であることが明らかになり、より詳細な分子に着目する手がかりを得ることができた。今後は、ハイドロゲル上で培養した細胞内の変化を網羅的に解析する必要があると考え、プロテオーム解析などを行い、細胞外の電荷に反応する遺伝子やタンパク質の特定を行う。そして、これらの因子が機能しているかを機能阻害やバイオイメージングなどの手法を用いて解析していく。
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