Project/Area Number |
21K15422
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Research Institution | Kyoto Tachibana University |
Principal Investigator |
岡田 光貴 京都橘大学, 健康科学部, 専任教員 (80747569)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 潰瘍性大腸炎 / マクロファージ / S100タンパク質 / 組換えペプチド |
Outline of Annual Research Achievements |
潰瘍性大腸炎(UC)は大腸組織に慢性炎症が生じ, 症状の寛解と再燃を繰り返す難病である。これまでに, 申請者は大腸組織に浸潤したMΦが産生するS100タンパク質に注目し, その発現バランスの崩れがUCの発症と悪化に深く関与する可能性を報告した。なお, S100タンパク質は主に骨髄系免疫細胞が産生・分泌するタンパク質であり, これら細胞の免疫機能を調節すると考えられているが, その具体的な働きは未詳である。注目すべき点として, S100A8とS100A9は生化学的に分子量と一次構造が異なっており, この差が両タンパク質の免疫機能の差に繋がっていることが挙げられる。本研究では, ラットのS100タンパク質の組換えペプチドを作製し, 本タンパク質の機能的役割を規定する活性中心の一次構造を明らかにする。また, 本組換えペプチドがMΦの異常活性を律する効果を検証し, UCに対する新しい治療薬としての応用可能性を評価する。 2021年度は, ラットのS100A8タンパク質を基調とした組換え体rMIKO-1を設計し, それを精製した。本ペプチドをUCモデルラットに投与した際, 下痢と下血が著しく抑制された。また, 本ペプチドはマクロファージの核内にまで移行し, やがて炎症関連因子の活性化を強力に抑制することが示された。さらに, 大腸内タンパク質を精査する過程で, 大腸組織中で特異的に変動する因子, Ⅲ型炭酸脱水酵素(CA-Ⅲ)に注目した。UCの発症と悪化に伴い, 血清および大腸組織中のCA-Ⅲは有意に減少した。そこから, CA-ⅢはUCの病態把握に有用な新規バイオマーカーと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は現状, 当初の予定よりも早い進捗状況を示している。 まず, 計画の1年目に予定していた, ラットのS100タンパク質の組換えペプチドを作製し, 精製することができた。さらに, ラットのS100A8タンパク質を基調とした組換え体rMIKO-1が, マクロファージの過剰な免疫機能を抑制する機能を有することを確認し, 本ペプチドの新たな免疫抑制剤としての可能性が示された。以上のように, rMIKO-1の有益な機能が認められたことから, 当初の予定を早め, これをUCモデルラットに投与する実験に移行した。その結果, rMIKO-1の腹腔投与が, UCにおける大腸炎を緩和する可能性が示された。この成果に基づき作成した英語論文は, 海外雑誌Inflammationに採択された(Okada K, et al., Inflammation 45(1):180-195, 2022)。 さらに, UCの血清中や大腸組織で有意に変動する因子としてCA-Ⅲを検出し, 病態把握に有用なバイオマーカーとしての可能性を提示した。本成果は, CA-ⅢがUCの新たな臨床検査マーカーとなりうることを世界で初めて報告するものである。この成果に基づき作成した英語論文は, 海外雑誌Biologyに採択された(Okada K, et al., Biology 11(4):494, 2022)。 以上の結果は当初の予想を上回るものであるため, 「当初の計画以上に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の成果においては, ラットS100A8組換えペプチドの機能的役割を精査した。2022年度は, ラットS100A9のN末端およびC末端側からそれぞれ20AA配列を切断(A9-α,β), もしくは付加(A9-γ,ε)した組換えペプチドを精製し, マクロファージおよびUCモデルラットへの投与効果を検証する。すなわち, ラットS100A9組換えペプチドがマクロファージを活性化させるのか, あるいは沈静化させるのかを, in vitroの実験系で精査する。その結果を踏まえ, 本ペプチドのUCモデルラットへの投与に進み, 大腸炎の病態に与える変化を詳細に観察する。以上の研究内容について一定の成果が得られた後に, S100タンパク質の機能的役割を規定する一次構造の解明, および, その構造に基づく組換えペプチドのUCに対する新規治療薬としての有効性について, 総合的に考察する。将来的には, ヒトS100タンパク質の一次構造を効率的に組換えたペプチドを構築し, UCおよびその他の炎症性疾患の病態に対して優れた薬理効果を発揮する新規ペプチド製剤の開発へと研究を発展させたい。
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Causes of Carryover |
成果報告として海外学術雑誌への論文掲載が遅れ, 2021年度内での論文掲載費の使用が無い分は2022年度に繰り越すことになった。2022年度は, 新たな動物実験および細胞培養実験を開始するために必要な消耗品の購入に加え, それら実験成果を学会発表や学術雑誌投稿を通じて積極的に発信する予定である。そのための経費として, 2021年度繰り越し分と2022年度交付予定額が必要である。
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