2021 Fiscal Year Research-status Report
皮膚糸状菌の病原性発現機構に関わる細胞内シグナル伝達系の解析
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21K15438
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Research Institution | Musashino University |
Principal Investigator |
石井 雅樹 武蔵野大学, 薬学部, 助教 (10786966)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 皮膚糸状菌 / 菌糸成長 / 新奇作用標的 / タンパク質間相互作用 / プロテインキナーゼ / キナーゼ阻害剤 / 低分子量Gタンパク質 / 真菌感染症 |
Outline of Annual Research Achievements |
白癬(水虫)は皮膚糸状菌によって引き起こされる浅在性真菌感染症であり、10人に1人以上が感染していると言われるほど一般的な疾患である。皮膚糸状菌の細胞内シグナル伝達系は病原性と深い関係にあるが、その分子機構については未だ不明な点が多い。本研究では、皮膚糸状菌の病原性発現制御に関わる細胞内シグナル伝達系に着目し、皮膚糸状菌の菌糸成長における役割を明らかにすることを目的とする。本研究では、皮膚糸状菌の菌糸成長に必要なRac及びCDC42に着目し、その下流で働くプロテインキナーゼp21-activated kinase(PAK)の一つであるCla4の機能を欠損株及び条件発現株を用いて解析するとともに、組み換えタンパク質によりin vitroでのRacとの相互作用を検証した。Cla4欠損株は菌糸成長が著しく制限されており、それはPAK遺伝子の相補により回復した。Cla4欠損株では菌糸の分岐が増え、菌糸が短くなっていた。さらにアクチンの菌糸先端における局在が減少しており、アクチンを介した菌糸成長に関与することが示唆された。野生株をアクチン重合阻害剤サイトカラシンAで処理すると菌糸成長が抑制された一方、Cla4欠損株では優位な抑制は見られなかった。PAK全長とRacはプルダウンアッセイで相互作用したことから、PAKがRac下流でエフェクターとして機能していることが示唆された。本研究は皮膚糸状菌の細胞内シグナル伝達系の生理機能の理解を深めるだけでなく創薬における新規分子標的の提案を可能にすると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、A.皮膚糸状菌の細胞内シグナル伝達系の生理的機能の解明及びB.皮膚糸状菌の細胞ないシグナル伝達分子を標的とした薬剤スクリーニングの二点を進める予定でいた。本年度は、それらの検討のうち、A.について予定されていたRac及びCDC42の相互作用因子を探索した。Racと相互作用する下流分子の候補として、Racとの結合に関与するCRIB (CDC42/Rac interactive binding)ドメインを有するタンパク質PAK(p21-activated kinase)に着目した。PAKの一つであるCla4は以前の検討で、欠損により菌糸成長の極端な遅延を引き起こすことから、皮膚糸状菌の菌糸成長に寄与すると思われる。Cla4遺伝子を欠損株に相補すると菌糸成長は回復した。また、Cla4と可溶化タグTrigger factorの融合タンパク質はRacと相互作用した。さらに、Cla4欠損株では菌糸先端のアクチン局在が減弱していた。これらのことから、当初の計画で予定していた研究を概ね進めることに成功した。また、Bについては、PAKのキナーゼドメインの大量発現を目指し、検討を行なったが、得られたタンパク質に活性がなかったことから、現在融合タグやペプチド断片の長さなどを改変した新たなコンストラクトを作成中である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進方針としては、Cla4欠損株については、更なる性状解析のため、免疫染色やウエスタンブロッティングなどの手法により、タンパク質の局在や、発現を詳細に解析する予定である。また、活性のあるCla4キナーゼドメインの可溶性タンパク質が得られておらず、その活性評価ができていないことから、タンパク質の正常な折りたたみを促進するSUMOタグなどどの使用やペプチド断片の長さなどを改変することにより、これを解決していく予定である。さらに、本研究課題の公表を目的として、学会発表及び論文化を進める。
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Causes of Carryover |
COVID19感染症に伴う緊急事態宣言等による研究施設への部分的な立ち入り制限や物品の納入の遅延等により、実験施設における研究を十全に行えない期間があったため、執行額が予定より少なかった。次年度の感染症の動向は見えないが、可能な部分では引き続き外部受注等も使用しつつ研究を遂行していく予定である。
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