2022 Fiscal Year Research-status Report
NSAIDsによるABCC3とROSを介した家族性大腸腺腫症の発癌抑制機構の解明
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21K15477
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小林 実 東北大学, 大学病院, 助教 (40885547)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ABCC3 / Wntシグナル / 家族性大腸腺腫症 / FAP |
Outline of Annual Research Achievements |
既存の論文より活性酸素種(ROS)がABCC3の基質である可能性が高いと考え、実験を施行していたが、我々の実験結果にてABCC3はROSを排出するのではなく、ROSを検出するために用いていた試薬であるdichlorodihydrofluorescin diacetateを排出しているということが判明した。これによって実験結果を大きく変更する必要性が生じた。そのため令和4年度は当初の計画を変更し以下の研究を行った。 以前、大腸癌においてABCC3の発現がWntシグナルによって抑制されていることを示したが、令和4年度は、まずこの事象が家族性大腸腺腫症(FAP)における腺腫の段階でも生じていることを確かめるための実験を行った。これまで1例の患者由来の腺腫において結果を示していたが、新たに4例の患者の腺腫においてもABCC3の発現低下を確認した。さらに公開されているデータベースの解析においてもFAPモデルマウスの腺腫由来のオルガノイドでABCC3の発現低下が確認された。 次にROSに代わるABCC3の基質候補として、我々が過去に使用してきたデオキシコール酸(DCA)に着目し、DCAが大腸癌発癌に関わるMAPKシグナルに与える影響を解明する実験を行った。ABCC3を過剰発現させた大腸癌細胞株(SW620, HT-29)にDCAを加えた結果、Controlに比べてMAPKシグナルの活性化を示すERKのリン酸化がタンパクレベルで抑制されていることが明らかとなった。その結果からABCC3の発現上昇によってDCAによるMAPKシグナルの活性化が抑制されることが示唆された。過去の研究でSW620においてABCC3の発現により細胞内DCA濃度が変化することが示唆されているため、ABCC3が細胞内のDCA濃度変化に影響を与え、その結果MAPKシグナルの活性化にも影響を与えていると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
FAPの手術症例が少ないため、FAP患者由来のオルガノイドを用いて行う予定である実験計画(B)『ABCC3発現変化によるROS濃度とMAPKシグナルへの影響の解 明』の開始が当初予定していた計画より遅れている。またROSがABCC3の基質であることを示した既存の論文に基づいて実験を行っていたが再現性を示すことができず、実験計画を大幅に変更する必要性が出たため、実験に遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度の結果からABCC3の発現上昇によってDCAによるMAPKシグナルの活性化が抑制されることが示唆されたため、これまでの報告でWntシグナルとの関連が示唆されている4種類のNSAIDs(aspirin、sulindac、celecoxib、nabumetone)を、大腸癌細胞株(SW620、HT-29)に投与し、各種NSAIDsがWntシグナルに与える影響、ならびにABCC3の発現に与える影響を明らかにする。 既存の報告で大腸癌細胞株にNSAIDsの一種であるsulindacを投与するとABCC3の発現が亢進したとする報告があり、NSAIDsはWntシグナルを抑制することによりABCC3の発現を亢進させる可能性があるため、これを再現することができれば、NSAIDsはWntシグナルの抑制によってABCC3の発現を亢進させ、そのことがDCAを介したMAPKシグナルの抑制に繋がることを示すことができると考える。
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Causes of Carryover |
令和4年度の実験では、生化学的な実験の多くは研究室に既存の試薬・器具を使用して行ったため、次年度使用額が生じた。令和5年度は各種新規実験系を施行予 定であるため、翌年度分として請求した助成金と合わせて試薬・器具を揃えた上で研究を行っていく予定である。
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