2021 Fiscal Year Research-status Report
膵腫瘍-間質の相互作用におけるSTING経路の働き
Project/Area Number |
21K15491
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
佐藤 健 横浜市立大学, 附属病院, 助教 (50806106)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 膵臓癌 / 癌関連線維芽細胞 / STING |
Outline of Annual Research Achievements |
膵癌は5年生存率が10%に満たない予後不良な疾患である.膵癌の特徴として,間質が極めて豊富であることが挙げられる.本研究では,間質構成成分の中で癌関連線維芽細胞(CAF)に着目し,癌細胞-間質の相互連関を担う因子として,腫瘍核酸のセンサーであるSTING経路に焦点を当て,本研究を実施した. ①動物モデルを用いた膵癌におけるSTING経路の機能解析:膵特異的にKrasを発現させるマウス(Ptf1a-cre /LSL-KrasG12D/+:KC)と,STINGノックアウトマウス(STING-/-)を交配し,STINGの影響を検討したが,KCとKC+STING-/-では,前癌病変であるPanINの形成や悪性度に差を認めなかった.KCより樹立したマウス膵癌細胞株であるEPPK1細胞を用いた皮下移植モデルでの検討として,野生型およびSTING-/-に皮下移植を行い,DMXAA(STINGアゴニスト)を直接腫瘍内に投与すると,野生型では腫瘍抑制効果が認められたが,STING-/-では抑制効果が認められなかった.DMXAAによる抗腫瘍効果は,腫瘍細胞自体への作用ではなく,間質成分への作用によるものと考えらた. ②細胞レベルの検討:KCより樹立したCAFを用いた.このCAFはSTINGを発現し,DMXAAにより活性化し,INFβの産生が促された.STINGが活性化する機構の解析のため,EPPK1を培養した上清,Freeze and thawによる壊死物質や,抗がん剤の投与・放射線照射およびそれらの併用を行ったが,いずれもSTINGの活性化は観察されなかった. ③膵臓癌臨床検体からの膵癌細胞株/CAFの樹立とアゴニストの応用:マウスでの基礎的な検討に時間を要しており,未着手である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
動物モデルを用いたSTINGの膵腫瘍における役割については,仮説としては,STINGをノックアウトすることで腫瘍免疫が減弱し,PanINの形成促進・悪性化を来すことを想定していたが,研究実績概要に示したように,KCとKC+STING-/-において,差を認めなかった.膵腫瘍の悪性度をより高めることで,病理組織学的な差を示せる可能性は残されており,KCにさらにTP53を欠損させたマウス(Ptf1a-cre/LSL-KrasG12D/+/TP53 f/f:KPC)を作成し,STING-/-と掛け合わせて病理組織学的検討を行うべく,今後個体数を増やしていく予定である.また,定常状態において,膵癌の間質ではSTING陽性細胞が多く認められるものの,その活性化を示すpSTING陽性細胞の数は非常に少なかった.皮下移植モデルにおいて,DMXAAを投与することで,腫瘍抑制効果を得ることができ,腫瘍間質内のSTINGをなんらかの方法で活性化させることができれば,治療効果を示すことができると考えられる.残念ながら,CAFを用いた細胞レベルの検討では,腫瘍由来の抽出物やゲムシタビンの投与,放射線照射など様々な刺激を用いて検討を行ったが,CAFのSTINGを効率的に活性化する因子の同定には至っておらず,今後の課題であると考える.STINGを活性化しうる因子が認められれば,CAF内で起こる変化をRNA seq解析にて網羅的に遺伝子発現変化を解析する予定である.膵癌臨床検体を用いた,膵癌細胞株の樹立と解析については,動物モデル・細胞レベルでの検討に想定より難渋しており,未着手のままとなっている.
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Strategy for Future Research Activity |
膵癌動物モデルでのSTINGの役割を十分に示すことが出来ていない状況であり,病理組織学的な評価を行うに足る数のKPC+STING-/-を創出する必要があり,現在交配を進めている.KPCとKPC+STING-/-の間で病理組織学的な差異を見いだせなかったとしても,皮下移植モデルと同様にDMXAA投与などSTING経路の活性化を行うことで,生存期間の延長や腫瘍増殖抑制効果が得られることを示していく予定である. 皮下移植モデルにおいて,間質でのSTING活性化が腫瘍増殖に抑制的であることは示せているが,間質の免疫系細胞でのSTINGの活性化も腫瘍抑制に有利に働くと考えられる.CAF単独でも腫瘍抑制効果があることを明確に示すため,野生型マウスにSTING-/-の骨髄を移植し,免疫系細胞のみSTING-/-としたマウスを用いて皮下移植を行い,DMXAAを投与することで腫瘍抑制効果が得られるか検証を重ねていく予定である. 現状における一番の課題は,CAFにおけるSTING活性化の因子を同定できていないことであり,ゲムシタビン以外の抗がん剤の使用や,皮下移植モデルへの薬剤投与など多面的な検討を行い,腫瘍内のCAFの活性化因子の同定を行う.また,同定された因子を用いて刺激を行い,RNA seq解析にて網羅的に遺伝子発現変化を解析していく. これらの動物モデル・細胞レベルでの検討をより詳細に行った後,膵癌臨床検体を用いた,膵癌細胞株の樹立や解析に着手していく予定である.
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Causes of Carryover |
現在までの進捗状況で報告した通り,動物モデルで想定と異なった病理組織学的な結果が得られており,その解釈に時間を要している点や,CAFのSTINGを活性化する因子の同定に難渋しており,本研究の進捗状況はやや遅れている.これらの基礎的な検討が十分に積み重ねられていない中で,ヒト臨床検体を用いた検討へと進むことは難しいと判断し,着手できていない状況である.申請時の研究計画で計上した際,3次元オルガノイドに用いる試薬が試算が比較的高額であり,余剰額が発生したと考える.また,進捗状況がやや遅れているため,学会発表も行えておらず,旅費も発生しなかった. 次年度に関しては,動物モデルや細胞レベルでの検討を重ね,ヒト臨床検体を用いた検討まで着手する予定であり,余剰額はオルガノイド培養を含めた試薬の購入などに使用していく予定である.
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