2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K15518
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Research Institution | Sasaki Foundation |
Principal Investigator |
宮崎 允 公益財団法人佐々木研究所, 附属研究所, 研究員(移行) (20804131)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | がん転移 / 腹膜播種 / 細胞クラスター形成 / 転移モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
転移は癌による死亡の主な原因であるが、腹膜播種においてはその分子メカニズムは未だ不明な点が多く、有効な治療法も確立されていない。本研究では、腹水中の癌細胞における細胞クラスター形成の分子メカニズムおよび腹膜播種における役割を明らかにし、さらにクラスター形成阻害による腹膜播種抑制効果について検証することを目的とした。2021年度は主に3つの実験計画に着手した。 計画①クラスター形成阻害剤のスクリーニング:in vitroにおいて腹水処理により誘導される癌細胞の凝集(クラスター形成)に対する阻害剤の小規模スクリーニングを実施した。抗凝固薬として用いられている複数の化合物によりクラスター形成が阻害された。 計画②クラスター形成に関与する分子の解析:計画①の結果から、腹水処理により誘導される癌細胞のクラスター形成には血液凝固系が関与していることが示唆された。癌細胞による血液凝固系の活性化には組織因子(TF)が関与していることが知られている。そこでCRISPR-Cas9システムを用いてTFノックアウト癌細胞株を樹立した。これらの癌細胞株に対して腹水処理を行なった結果、クラスター形成は認められなかった。 計画③TFノックアウトによる腹腔内クラスター形成への影響:計画②の結果から、in vitroにおいて腹水処理により誘導される癌細胞のクラスター形成には、TFを介した血液凝固系の活性化が必要であることが分かった。そこで、TFノックアウトおよび野生型TF発現癌細胞株について、ヌードマウス腹腔内へ移植した際のクラスター形成を比較した。その結果、TFノックアウト癌細胞株は野生型TF発現癌細胞株に比べ、有意にクラスター数が減少していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は3つの実験計画を実施した。計画③については当初の予定から変更し、計画②で得られた分子についてのin vivoにおける機能解析に着手した。 計画①クラスター形成阻害剤のスクリーニング:in vitroにおいて腹水処理により誘導される癌細胞の凝集(クラスター形成)に対する阻害剤の小規模なスクリーニングを実施した。研究代表者はこれまでに、EDTAおよびヘパリンによりクラスター形成が阻害されることを発見していたことから、血液凝固系に着目し複数の抗凝固薬について検討した。その結果、トロンビンおよびFactor Xaに対する阻害剤により癌細胞のクラスター形成が阻害されることを確認した。 計画②クラスター形成に関与する分子の解析:計画①の結果から、腹水処理により誘導される癌細胞のクラスター形成には血液凝固系が関与していることが示唆された。癌細胞による血液凝固系の活性化には組織因子(TF)と呼ばれる膜タンパク質が関与していることが知られている。そこでCRISPR-Cas9システムを用いてTFノックアウト癌細胞株(胃癌、膵臓癌、大腸癌、卵巣癌)を樹立した。これらの癌細胞株に対して腹水処理を行なった結果、クラスター形成は認められなかった。 計画③TFノックアウトによる腹腔内クラスター形成への影響:計画②の結果から、in vitroにおいて腹水処理により誘導される癌細胞のクラスター形成には、TFを介した血液凝固系の活性化が必要であることが分かった。TFノックアウトあるいは野生型TF発現癌細胞株をヌードマウス腹腔内へ移植し、4時間後に腹腔洗浄液中に含まれる癌細胞クラスター数を比較した。その結果、TFノックアウト癌細胞では野生型TF発現癌細胞に比べ有意にクラスター数が減少していた。 以上の結果から腹腔内における癌細胞のクラスター形成にはTFを介した血液凝固系の活性化が重要であることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究により、in vitroおよびin vivoにおける癌細胞のクラスター形成について、癌細胞が発現しているTFが重要であることが分かった。一方で、TFを介した血液凝固系の活性化による癌細胞クラスター形成の分子メカニズムは未だ不明である。また、TFノックアウト癌細胞において腹膜播種の抑制が認められるかについても検討する必要がある。そこで2022年度は下記の研究計画を実施する。 計画④血液凝固系活性化を介した癌細胞クラスター形成機構の解析:血液凝固系の活性化により生成されるフィブリンとクラスター形成への関連について検討する。まず、in vitroにおいて腹水処理により形成した癌細胞クラスター中にフィブリンが存在するかについて調べる。抗フィブリン抗体を用いたウェスタンブロッティングおよび免疫蛍光染色により検討する。また、前年度計画③と同様の方法によりマウス腹腔内で形成した癌細胞クラスターを回収し解析する。 計画⑤TFノックアウトによる腹膜播種への影響の解析:前年度計画②で作成したTFノックアウト癌細胞株を用いて腹膜播種への影響を検討する。ここではTFノックアウト癌細胞および野生型TF発現癌細胞をヌードマウス腹腔内へ移植する。移植後、形成した大網腫瘍の重量、腸管膜腫瘍の個数を計測し比較する。 計画⑥細胞クラスター形成及び血液凝固系活性化の腹膜播種における役割の解析:細胞クラスター形成及び血液凝固系活性化が癌細胞に与える影響について検討する。腹水処理により形成した癌細胞クラスター、丸底の細胞培養容器により形成した癌細胞クラスター、シングルセル癌細胞についてin vitroにおける細胞増殖、中皮細胞への接着等を比較する。
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Causes of Carryover |
2021年度研究計画について、計画の一部変更および学会開催の変更により次年度使用額が生じた。それに伴い2022年度の実験計画についても変更し、これにより使用額の増加が見込まれる。
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Research Products
(2 results)