2023 Fiscal Year Research-status Report
Hippo-YAP経路を利用したBRCAness陽性がんの新規合成致死療法開発
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21K15526
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Research Institution | Microbial Chemistry Research Foundation |
Principal Investigator |
大木 拓也 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所, 博士研究員 (40897021)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | YAP1 / PARP阻害剤 / 液液相分離(LLPS) / 乳がん / 卵巣がん / BRCAness / オルタナティブスプライシング |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度の研究成果から申請者はスプライシングバリアント依存的なYAP1エンハンサー複合体形成がYAP1液-液相分離形成に重要であること、ならびに、YAP1は液滴形成依存的にDNA二本鎖切断の修復を担うMMEJ(Microhomology-mediated end joining)の活性を増加させ、PARP阻害剤耐性化を誘導することを見出している。近年、細胞核内における転写(共役)因子の液-液相分離はスーパーエンハンサー形成による遺伝子発現制御に関係することが報告されており、がん微小環境形成ならびに、がんの悪性化などとの関わりが注目を集めていることから今年度はYAP1液-液相分離(スーパーエンハンサー)形成によってどのような遺伝子群が発現の制御を受けるのかを解明するためにRNAseqによる網羅的解析を実施した。結果、液-液相分離を形成するYAP1バリアントと形成しないYAP1バリアント間で制御している遺伝子群が大きく異なることが明らかとなった。また、液滴依存的な制御を受ける遺伝子群の同定を行い、これらの同定遺伝子を基に表現型解析を行ったところ、PARP阻害剤に対する耐性化に加えて液-液相分離を形成するYAP1バリアントは他のYAP1バリアントと比較し強い足場非依存的な増殖を示すことが明らかとなった。これらの結果はYAP1の液滴形成ががん悪性化と強く関連することを示唆したものである。また、上記に加えて、昨年度までの研究成果で明らかとなった、YAP1液滴形成の分子機構に基づいた液滴阻害分子の創出にも取り組み、YAP1液滴形成を阻害し下流遺伝子の発現増加ならびに表現型を改善し得る分子の設計に成功した。本研究成果はYAP1シグナルを軸とした細胞機能制御の理解を深めると同時に、転写共役因子の液-液相分離を標的とした革新的な抗がん剤の開発につながると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
YAP1液-液相分離(スーパーエンハンサー)形成によってどのような遺伝子の発現が変動するのかをRNAseqを用い網羅的に解析し、液-液相分離を形成するYAP1バリアントと形成しないYAP1バリアント間で制御している遺伝子群が大きく異なることを明らかにした。また、液滴依存的な制御を受ける遺伝子群として、DNA損傷修復関連遺伝子に加え、幹細胞維持、上皮間葉転換(EMT)、サイトカインなどに関連した遺伝子群が含まれていることを明らかにした。これらの同定遺伝子に関連したフェノタイプとして、PARP阻害剤に対する耐性化に加えて3次元培養による足場非依存的な増殖を強く促進させることを明らかにした。さらに、これらのYAP1液滴形成により惹起されるPARP阻害剤の耐性化、ならびに、足場非依存的な増殖促進がYAP1液滴形成の阻害分子によって部分的に解消できることを細胞株レベルで実証することに成功した。液滴阻害分子の創出という当初の研究計画には含まれない研究を実施することとなったが、得られた一連の研究成果は難治性の乳がん、ならびに、卵巣がんに対する新たな治療標的の発見につながる知見であると同時に、転写共役因子の液-液相分離を標的とする革新的な抗がん剤の開発につながる可能性があることから妥当な評価と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
YAP1液-液相分離の阻害によりPARP阻害剤に対する耐性化が解消されることを細胞株レベルで明らかにしてきたが、一方で、in vivoレベルでの検証が行えていないことが課題である。そこで、卵巣がん、乳がん患者さんの組織において実際にYAP1のオルタナティブスプライシングが観察されるのか、また、その標的遺伝子とりわけMMEJに関連した分子がタンパク質レベルで発現増加しているのかなどを検証していく。さらに、ヌードマウスに対する異種移植系(Xenograftモデル)を確立することで、YAP1液滴の阻害によりPARP阻害剤の耐性化が解消されるか否かをin vivoレベルで検証していく。また、昨年度に引き続きYAP1液滴形成の起点となるYAP1のオルタナティブスプライシングを担う分子を明らかにするために、PARP阻害剤耐性獲得-がん細胞株とそのコントロール細胞株における網羅的オミクス解析を実施し、YAP1オルタナティブスプライシングを担うスプライシングファクターならびに関連するシグナル経路の同定を試みる。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画ではヌードマウスを使用したPARP阻害剤耐性がん細胞の異種移植実験系の確立ならびに既存のYAP1-TEAD結合阻害剤を用いたPARP阻害剤耐性化の解消を目指した治療実験を行う予定であった。しかしながら、PARP阻害剤に対する薬剤耐性化機構の一端としてYAP1液液相分離の形成という非常に興味深い現象を発見するに至った。液液相分離を標的とした阻害分子の創出は革新的な抗がん剤開発につながると考え、この現象の分子機構の解明ならびに、解明した分子機構に基づくYAP1液液相分離の阻害分子創出に時間を要したことで、本来今年度行う予定であったin vivoレベルの実験を次年度以降に行うこととなった。以上の理由で次年度使用額は今年度創出したYAP1液液相分離の阻害分子を用いた治療実験を行うためのヌードマウス購入費用ならびに、in vivoレベルでの検証とりわけヒト組織解析に必要ながん組織アレイの購入費用として使用する予定である。
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Research Products
(2 results)