2021 Fiscal Year Research-status Report
進行性霊長類パーキンソン病モデルを用いた、病態進行メカニズムの経時的解析
Project/Area Number |
21K15626
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
菊田 里美 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 モデル動物開発研究部, リサーチフェロー (00802290)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | パーキンソン病 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は進行性の神経変性が持続するパーキンソン病モデルサルに対して、行動学的解析・組織学的解析・生化学的解析・神経活動に関する解析を実施することで、パーキンソン病の進行過程における、脳・体内状態を明らかにし、症状発現前の病態の進行のメカニズムを理解することにより、パーキンソン病における病態進行の予測や治療法の開発を可能にすることを目的とする。 当該年度はマカクザルチェアートレーニングを行い、採餌課題トレーニング終了後、サルに頭部固定器具および記録用チャンバーの取り付け手術を行った。次に、運動皮質からの応答を見るために、一次運動野および補足運動野をマッピングし、手、指、腕の運動に関与している部位を同定し、その場所に刺激電極を慢性的に埋め込む手術を実施した。その後、電気生理学的なマッピングにより線条体、淡蒼球内節および外節の手の運動に関わる部位を同定し、記録部位を決定した。 健常状態での線条体、淡蒼球内節・外節からの電気生理学的な神経活動計測、および行動学的なコントロールデータ取得後、黒質ドーパミンニューロンの細胞死を誘導するといわれている1-methyl-4-phenylpyridinium cation (MPP+)を、手、指、腕の運動に関わる線条体の部位に投与することで、部分的な機能障害を呈するパーキンソン病モデルサルの作製を試みた。 その結果、行動解析では線条体へのMPP+ の局所微量投与によりサルの採餌タスクの成功率は減少する傾向がみられた。特に餌をつかむ際の指先の運動が鈍くなる傾向がみられた。電気生理学的な神経活動解析の結果、運動皮質を刺激した際に、大脳基底核の出力核である淡蒼球内節の抑制性の応答が減少する傾向がみられた。この応答は運動皮質から線条体を経由した直接路と言われる回路による応答であることが分かっているため、線条体の神経活動に変化があることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
行動解析ではサルの採餌タスクの成功率は減少する傾向がみられた。特に餌をつかむ際の指先の運動が鈍くなる傾向がみられ、電気生理学的な神経活動解析では淡蒼球内節の抑制性の応答が減少する傾向がみられた。しかし組織学的解析の結果、コントロールと比較して黒質のドーパミンニューロンの TH の発現量に減少傾向がみられたが、目立った細胞変性や細胞死は確認されなかった。また、線条体の MPP+ 注入部位に注入によるとみられる損傷が見られたため、淡蒼球内節の抑制性応答の減少がこの損傷によるものなのかを検討する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、薬剤によるパーキンソン病モデルサルを用いて行動学的解析、電気生理学的解析および組織学的解析のセットアップや条件検討が完了したので、来年度以降は実際にシヌクレインを発現するウイルスベクターを用いた実験を行う予定である。今後は逆行性にアルファシヌクレインを発現するウイルスベクターをサルの片側線条体に注入し、パーキンソン病モデルサルを作製し、行動学的、電気生理学的および組織学的な解析を行う。チェアートレーニングを行ったマカクザルに単純な採餌課題をトレーニングする。トレーニング終了後、頭部固定器具および記録用チャンバーの取り付け手術を行い、MRI を撮像する。運動皮質を電気生理学的にマッピングし、手、指に応答のある部位を同定し、その場所に慢性的に刺激電極を埋め込む。その後、電気生理学的なマッピングの悔過に従って記録部位を決定する。具体的には、線条体、淡蒼球内節および淡蒼球外節をターゲットにする。健常状態での行動学的および電気生理学的なコントロールデータが質、量ともに十分取得されたことを確認し、逆行性に感染し、アルファシヌクレインを発現するウイルスベクター (AAV2-retro) をサルの片側線条体の手の運動に関わる部位に投与し部分的に病態が進行するパーキンソン病モデルサルの作製を試みる。このモデルサルに対して、症状、神経活動および組織学的な解析を行う。
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Causes of Carryover |
オンライン研究会の参加が多く、実質的な旅費が生じなかったため次年度物品費として使用予定。
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