2021 Fiscal Year Research-status Report
肝疾患の治療戦略となる新しい機序:リゾホスファチジルセリン
Project/Area Number |
21K15659
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西川 尚子 東京大学, 医学部附属病院, 特任臨床医 (80814706)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | リゾホスファチジルセリン / リゾリン脂質メディエーター / 肝線維化 |
Outline of Annual Research Achievements |
グリセロリゾリン脂質は多彩な生理活性作用を発揮するがその分子種による生理活性作用の相違については不明な点が多い。リゾリン脂質と肝線維化の関連ではリゾホスファチジン酸、スフィンゴシン1-リン酸が肝線維化と関連することが報告されている。リゾリン脂質に分類されるリゾホスファチジルセリン(LysoPS)は近年その特異的受容体(GPR174、GPR34、P2Y10)が同定され新規リゾリン脂質メディエーターとして注目され始めている。脂肪酸分子種と疾患をつなぐ新しい機序として新規リゾリン脂質分子種が関与していると仮説を立てた。今回我々はLysoPSが疾患、特に肝線維化に関与しているかということを明らかにすることを目指す。培養肝筋線維芽様細胞(CSF-8B)を用いて市販の18:0及び18:1由来のLysoPSを投与したところα-SMAの強発現を認めた。同細胞にLysoPS受容体のagonist投与にてα-SMAの強発現を認めた。肝線維化におけるTGF-betaの関与について、阻害剤を用いてsmad3およびp38MAPkinase、Rho-associated kinaseの関与を確認した。 CCl4投与肝硬変モデルマウスの肝組織においてISH法にて LysoPSの受容体を検討したところ、グリソン稍に一致して GPR174,GPR34,P2Y10の発現が増加していることを確認している。さらに慢性B型肝炎から発生した高分化型肝細胞癌のヒト組織では、非癌部のうち癌周囲の線維性被膜の近傍の肝星細胞において最も強い発現を認めていることを確認した。 また、CCl4投与肝硬変モデルマウスおよび肝線維化を伴うヒト血漿において、一部の脂肪酸分子種のLysoPSの有意な上昇を認めることを確認している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
リゾリン脂質に分類されるリゾホスファチジルセリン(lysophosphatidylserine;LysoPS)は近年その特異的受容体(GPR174、GPR34、P2Y10)が同定され、新規リゾリン脂質メディエーターとして注目され始めている。脂肪酸分子種と疾患をつなぐ新しい機序として新規リゾリン脂質分子種が関与しているという仮説を立てた。今回我々はLysoPSが疾患に関与しているかということを明らかにすることを目指した。 (1)培養肝筋線維芽様細胞(CSF-8B)を用いて、市販の18:0及び18:1由来の LysoPSを1 μM,10 μM投与し,24時間後にα-SMAをWB法にて検討したところ,α-SMAの発現が10 μM18:0及び18:1 LysoPS投与にて有意に増加した.薬理学的にはSmad3,p38,Rho kinaseの阻害薬によりLysoPSによるα-SMAの発現増強が阻害され,これらの関与が考えられた.(2)CCl4投与肝硬変モデルマウスの肝組織においてISH法にてLysoPSの受容体を検討したところ,グリソン稍に一致して GPR174,GPR34,P2Y10の発現が増加していた.また慢性B型肝炎から発生した高分化型肝細胞癌のヒト組織では,癌部では非癌部の大部分よりもこれら受容体の発現が増加していたが,非癌部のうち癌周囲の線維性被膜の近傍において最も強い発現を認めた.免疫染色にて肝星細胞,活性化した肝星細胞において強発現していることが考えられた.(3)前述のマウスの血漿および肝疾患を有するヒト血漿において一部の脂肪酸分子種のLysoPSの上昇を認めた。以上の結果よりLysoPSは新規肝線維化促進因子および線維化マーカーである可能性が示唆された.今後受容体アンタゴニストによる肝線維化の治療法の開発,アゴニストによる癌進展抑制剤の開発などが期待される.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度、我々はLysoPSが肝疾患、特に肝線維化に関与しているかということを明らかにすることを目指した。 その結果、培養細胞を用いた検討にて,LysoPSは肝臓の線維形成に関与していると推察された。またヒト検体では肝星細胞においてLysoPS受容体の発現亢進が認められ、LysoPSは肝線維化にも関与している可能性が示唆された。さらにマウスおよびヒト血漿において一部の脂肪酸分子種のLysoPSの上昇を認め、LysoPSの肝線維化マーカーとしての検査医学的応用の可能性が示唆された。来年度については、以下の通り研究を進めていく予定である。 ①-2癌に関する実験;病態への関与が考えられるLysoPS分子種を同定し増殖能、遊走能、浸潤能についてin vitroで検討する。さらにエイコサノイドの産生系の阻害剤、LysoPSの特異的受容体のアンタゴニストによりそれらの作用が阻害されるか検討する。次にNASH肝癌の機序を解明するためNASH肝癌モデルマウスを作成し病態の関与が考えられるLysoPS分子種を探索する。またin vivoにて癌の進展に関与するか、アンタゴニストやアゴニストに治療的効果があるか検討する。 ②ヒトにおける検討(2021-2022年度);慢性B型肝炎から発生した高分化型肝細胞癌のヒト組織を用いin situ hybridization法にてLysoPSの受容体について検討したところ非癌部のうち癌周囲の線維性被膜の近傍においてGPR174、GPR34、P2Y10の強発現を認めた。同部位の肝構成細胞を免疫染色にて検討後、関連が予想されるT細胞、特にCD8の発現を検討する。また該当箇所の脂肪酸の組成分析を検討する。肝疾患、担癌患者の血漿と血清を採取しガスクロマトグラフ/質量分析計、LC/MSを用いて肝線維化の重症度とエイコサノイドおよび新規リゾリン脂質との関連について検討する。
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Research Products
(2 results)