2021 Fiscal Year Research-status Report
統合失調症関連遺伝子WDR3欠損による認知機能および疾患感受性への影響
Project/Area Number |
21K15756
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
小林 桃子 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 精神薬理研究部, リサーチフェロー (30837274)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 統合失調症 / WDR3タンパク質 / ノックアウトマウス / 自発運動量 / 疾患感受性 |
Outline of Annual Research Achievements |
WD repeat domain 3 (WDR3) 遺伝子は、申請者らの分子遺伝学的研究において、女性の統合失調症との関連が認められた新規の統合失調症関連遺伝子である。中枢神経系における役割だけでなく脳領域ごとの発現も明らかとなっていなかったWDR3であるが、申請者の研究課題 (2019-2020年度,若手研究課題) において ① WDR3が海馬をはじめ脳に広く発現していること、② WDR3ホモノックアウトマウスは出生しないこと、③ WDR3ヘテロノックアウト (WDR3-HKO) マウスは顕著な表現型の変化を示さない一方で、海馬NMDA受容体NR2AおよびNR2BのmRNA発現量が有意に低下していることを報告した。本研究課題においては、WDR3の発現変化が認知機能および統合失調症の疾患感受性に及ぼす影響について検討している。 初年度は、海馬依存的機能の評価を含めた行動解析 (オープンフィールド試験、Y字型迷路試験、新奇物体認識試験) およびNMDA受容体遮断薬であるMK-801を投与した際の行動変化について評価を行なった。その結果、WDR3-HKOマウスは、オープンフィールド試験において僅かではあるが総移動距離が有意に増加しており、自発運動量が亢進している可能性が示唆された。Y字型迷路試験においては遺伝子型間で差は認められず、作業記憶の障害は検出されなかった。長期記憶を評価するための新奇物体認識試験においても記憶の障害は検出されなかったが、野生型マウスの新奇物体に対する選好度が57% (チャンスレベル: 50%) に留まっていることから、本系統のマウスでは試験の難易度が高かった可能性が考えられた。NMDA受容体遮断薬に対する感受性についても、遺伝子型による有意な行動変化は認められなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していたタイムスケジュール通りに、初年度に計画していた海馬依存的機能の評価を含めた種々の行動解析およびNMDA受容体遮断薬を投与した際の行動変化について解析を完了することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
行動学的解析において、野生型マウスと比較してWDR3-HKOマウスで顕著な表現型の変化は観察されなかった。加えて、先行課題において報告したWDR3-HKOマウスの海馬NMDA受容体NR2AおよびNR2Bサブユニットの発現低下が、自然交配により得られたコホートのマウスでは再現されないことが明らかになった。発現量の低下が観察されたコホートのマウスは母体への胚移植により出生した個体であり、手術の有無など妊娠 (胚発生) 時期環境が影響した可能性が推測される。近年、炎症に関連してWDR3の発現変化が報告されている (Gong et al. J Neuroinflammation. 2020)ことから、WDR3の発現変化に炎症などの外的要因が作用した際の影響についても、検討するべき課題であると考えている。これらの検討により、疾患感受性へのWDR3の関与について、より深い理解を得ることができる。 具体的には、最終年度に予定していたWDR3-HKOおよび野生型マウスを用いたRNA-seq解析を行い、炎症に関連したパスウェイへの影響など、予測される分子機能との関連を探る。発現変動遺伝子群を外的要因の候補因子として、WDR3とともに疾患感受性への影響をin vitroおよびin vivo実験系で検討する。
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Causes of Carryover |
年度末に論文投稿を予定していたため、英文校正および投稿・掲載料を確保していた。投稿時期が遅れたことから使用が次年度へ繰り越しになった。繰り越し分は、先述の通り論文の投稿および掲載時の費用に充てる。
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