2021 Fiscal Year Research-status Report
機能性RNA解析に基づく治療抵抗性小児白血病に対する革新的治療標的の探索
Project/Area Number |
21K15898
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
岡田 玲緒奈 千葉大学, 医学部附属病院, 特任助教 (60867662)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | マイクロRNA / 小児急性リンパ性白血病 / がん遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
小児急性リンパ性白血病(ALL)は小児悪性疾患のうち約25%を占める最も頻度の高いものである。治療法の改善によって、予後は劇的に改善しているものの、化学療法に強い抵抗性を示す「再発・難治症例」がALL症例のうち10-20%を占め、これらの治療には現在も難渋し、救命困難である。小児ALLは、既知のリスク因子を用いて、3つのリスク群「標準リスク」「中間リスク」「高リスク」に分類され治療が選択されるが、比較的治療強度が低くてもよいとされる「標準リスク」「中間リスク」の患者の中にも再発するケースが散見される。一般的に、再発症例では、通常の化学療法により再度寛解を得て造血幹細胞移植を目指すが、そもそも再度の寛解が得られないケースもしばしば経験される。ALL細胞が、既存の治療に対して、治療抵抗性を獲得する分子機序を解明する事は、本疾患の重要な課題である。申請者がこれまで行ってきた機能性RNA、特にマイクロRNAの遺伝子発現調節および、転写調節領域: スーパーエンハンサーによる遺伝子発現調節の両者を組み合わせた解析を行うことにより、治療抵抗性に関わるマスター遺伝子の発見を目指している。 2021年度は、治療抵抗性を獲得したALLの臨床検体と、同じ患者での初発時(治療感受性あり)検体のマイクロRNAシーケンス結果を解析し、治療抵抗性のあるもので発現が有意に低下しているマイクロRNAを見出した。これにより18の候補マイクロRNAを抽出でき、さらにそのうち5種は初発時の発現がある程度あり、解析に適していると判断した。まずはこれらのマイクロRNAの強制発現ががん抑制性を実際に細胞実験で示せるか(すなわち、これらのマイクロRNAの発現低下が治療抵抗性に関与しているか)を示すため、ALL細胞株(既存のものと、申請者が樹立したもの)にマイクロRNAの核酸導入を行うための各種方策を試行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまで申請者はlipofectionによるマイクロRNA導入を行ってきたが、リンパ球系の細胞であるALL細胞にはこの方法では核酸導入が十分になされなかった。このため、他の方法をとらざるを得ず、一から実験系を立ち上げる必要性が生じた。electroporationによる核酸導入は、既存の細胞株では十分な効率が得られたが、申請者が樹立した患者検体由来の細胞株に対しては細胞障害性が強すぎ、以後の研究には不適と判断した。この患者検体は起点となったマイクロRNAプロファイルの解析に提出したものの一つであり、これを使用できることは非常に重要なファクターである。以後、レンチウイルスベースのマイクロRNA発現ベクターを用いて、これを強制発現させる戦略に切り替え、現在その準備を行っている。当初利用できると考えていた手法が使えなかったうえ、レンチウイルスを用いた系はlipofectionと比べ格段に時間がかかることもあり、想定していたよりも研究課題の進捗状況としては遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
治療抵抗性のあるALL細胞で発現が有意に低下している、がん抑制性マイクロRNAの候補18種を見出した。そのうち5種は初発時の発現も十分あり、まずはこれらのマイクロRNAの強制発現をALL細胞株でレンチウイルスベクターにより起こす。これによりがんの悪性度に関わる表現形に変化がみられることを示したうえで、このマイクロRNAが標的とする遺伝子を見出し、それらの遺伝子ノックダウンを行うことで癌促進機能を明らかにする。 これと並行して、ALL細胞に対して抗がん剤を投与し、時間経過に伴い形成されるスーパーエンハンサー領域をChIP-sequenceにより行うこと、経時間的にRNAを回収し、蛋白コード遺伝子およびマイクロRNAの発現プロファイルを作成することを予定しており、これと前段までに述べたマイクロRNA発現プロファイルの情報を統合させることで、ALL細胞の抗がん剤投耐性に関与するマスター遺伝子を探索する。
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Causes of Carryover |
前述の通り、ALL細胞への核酸導入が過去の手法では効率が不十分であり、核酸導入後に行う予定であったRNA array解析などに当該年度中に至らなかったため、これらにかかると推測していた予算執行が次年度以降に繰り越されることになった。現在レンチウイルスによる遺伝子導入の系を確立させており、これにより以後の実験に進むことが可能となっている。
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