2021 Fiscal Year Research-status Report
新規iPS由来肝細胞・肝オルガノイド系を用いた肝発癌モデルによる発癌機構解明
Project/Area Number |
21K15942
|
Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
三好 正人 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, プロジェクト助教 (20844385)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | iPS細胞 / オルガノイド / 肝癌 / HBV |
Outline of Annual Research Achievements |
成熟肝細胞培養系の欠如は、肝不全に対する細胞治療など臨床応用のみならず薬剤スクリーニングや肝疾患モデルなど基礎研究においても大きな課題である。人工的多能性幹細胞であるヒトiPS細胞樹立以降、同細胞から分化誘導されるヒトiPS細胞由来肝細胞(iPS-Heps)も着目されてきたが、分化誘導後の成熟肝細胞としての維持培養は不可能であった。そこで本研究では、ヒトiPS細胞より誘導したiPS-Hepsを用いた新規肝細胞オルガノイド培養系を構築する。また、肝細胞癌における変異を再現した遺伝子編集ヒトiPS細胞を遺伝子編集技術により樹立し、肝細胞系譜への誘導、及び誘導した肝細胞オルガノイドを用いて解析を行うことで、新規肝細胞癌発癌メカニズムを明らかとすることを目的としている。 既に報告されている肝細胞オルガノイド培養系を用いてヒトiPS-Hepsを培養を試みたところ、維持培養できることを確認した。しかしながら培養期間・継代を経ることに、アルブミンの遺伝子発現レベルといった肝細胞らしさが低下していたため、培養条件の至適化を目的に条件検討を試みた。肝再生に関与する液性因子などの条件検討を加えた結果、高レベルのアルブミン発現を維持し、高い肝細胞としての形質を保持する新規肝細胞オルガノイド培養系を構築することが可能であった。同培養系は現時点で半年以上の培養継続に成功するなど長期培養が可能である。これらの結果を第25回肝臓学会大会で発表した。更に当施設における自験例から同定したHCCにおけるHBV integrationを再現したiPS細胞株を樹立し、肝細胞誘導を行うことで解析を行ったところ、肝細胞系譜への誘導することで増殖能が高いことが示され癌形質の一部模倣を得たと考えている。次年度はHBV integration iPS細胞における肝細胞オルガノイドを始めとした詳細な解析を検討している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の設定課題とした二項目(①、②)のうち、①であるヒトiPS由来肝細胞を用いた新規肝細胞オルガノイド培養系の構築については、肝再生、発生に関連する因子を検索することで、高度のアルブミン発現を維持するiPS細胞由来肝細胞オルガノイド培養系を構築することができた。培養条件の至適化に成功しただけでなく、半年以上の形質を保持した培養が可能であることも示し、長期培養にも成功するなど、計画以上の進展を得たものと考えている。 また②である肝細胞癌における遺伝子変異を再現した遺伝子編集iPS細胞の樹立に関しては、自験例におけるHBV integrationの詳細を解析し、それを再現するiPS細胞株の樹立に成功した。更には、肝細胞系譜への誘導と共に、遺伝子発現や増殖能などの詳細な解析により、MLL4領域へHBVがintegrationされたiPS由来肝前駆細胞では増殖能が高く、癌形質の一部を模倣した結果と考えている。このように既に期待しうる表現型も得るなど、同課題についても、計画以上の進展が得られており、これら結果は第25回日本肝臓学会・第28回肝細胞研究会において学会発表し、肝細胞研究会においては優秀演題賞を受賞するなど高い対外評価が得られたものと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
昨年度に引き続き、下記の課題を設定し研究を遂行する。 1)ヒトiPS由来肝細胞を用いた新規肝細胞オルガノイド培養系の構築:昨年度に至適化したオルガノイド培養系の肝細胞形質の詳細な解析を行う。また、オルガノイドのシングルセルRNA解析により、詳細な細胞についての網羅的解析を行うことで、同培養系の分子メカニズムの解明を試みる。 2)肝癌関連遺伝子変異iPS細胞を用いたオルガノイド系による新規肝発癌メカニズムの解明:昨年度に引き続き、樹立したiPS細胞株を肝細胞系譜へ誘導することで得られる表現型について解析を行う。MLL4領域へのHBVインテグレーションによる細胞増殖能上昇の詳細なメカニズムについて網羅的解析を試みる。 3)ヒトiPS由来肝構成細胞を組み合わせたヒトiPS細胞由来肝オルガノイド系の構築とそれを用いた肝細胞-他細胞連関の発癌過程における解析:更には、私が独自に開発したiPS由来肝星細胞を組み合わせた複数細胞種による培養系を構築することについても、既に本年度より実験に着手し、preliminaryな結果を得ている。 4)検証解析:1-3)で得られた肝発がんなどに関連するメカニズムについて肝生検、肝切除検体を始めとした臨床検体を用いて検証解析を行う。
|
Causes of Carryover |
遺伝子編集技術によるiPS細胞株樹立実験、及びiPS細胞由来肝細胞オルガノイド培養系の至適化実験がともに順調に遂行できたため、本年度使用予定額より少ない額で実験が遂行できた。次年度以降、肝細胞オルガノイド培養系の詳細な分子メカニズム解明や、それら樹立したiPS株を複数株用いて今後のiPS細胞由来肝細胞オルガノイド培養系の実験を行う予定である。また、MLL4領域へのHBVインテグレーションによる増殖能上昇ににて網羅的解析を始めとした詳細な分子メカニズムの解明を行うことで、肝発がんのメカニズムのみならず治療標的分子の探索も行うなど、これら諸実験に対して次年度使用額は用いる予定である。
|