2022 Fiscal Year Research-status Report
心臓エネルギー代謝におけるケトン体とナトリウム利尿ペプチドの関与
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21K16038
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
柏木 雄介 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (70814101)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 重症心不全 / 心臓エネルギー代謝 / ナトリウム利尿ペプチド / ケトン体 / アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬 / インスリン抵抗性 |
Outline of Annual Research Achievements |
重症心疾患の病態の根幹には、エネルギー基質である脂肪酸や糖の利用障害をはじめとした心臓エネルギー代謝異常が存在する。一方、重症心不全では体内でケトン体の産生亢進が生じる。近年、このケトン体が代替エネルギー基質として利用され重要な心保護作用を有することに注目が集まっているが、そのケトン体利用を亢進させる因子は十分に解明されていない。一方、申請者らは、ナトリウム利尿ペプチド(NP)が血行動態制御作用に加え、エネルギー代謝に関わる生理活性を介して、重症心不全の病態に深く関与していることを示してきた。 本研究はまず、重症心不全時にNP が心臓エネルギー基質としてケトン体利用を亢進させる因子となりうることを臨床研究で示した。自施設の心臓カテーテルデータベースを解析し、血中ケトン体濃度に影響を与えうる因子について検討した。各因子が血中ケトン体濃度に与える直接的な影響を明らかにするために、各種交絡因子を除外する目的で、共分散構造解析を用いて評価した。その結果、血中ケトン体濃度は、その心不全の重症度ではなく、BNPそのものの生理学的作用による影響を受けて上昇していると考えられた。 次に、このNP補充療法が心不全患者の糖代謝に及ぼす影響について検討を行った。 アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)は、アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)とネプリライシン阻害薬の2つの成分からなっており、内因性のNPを増強することでNP補充療法としての効果が期待される新規心不全治療薬である。慢性心不全において、通常の治療薬であるACE阻害薬またはARBをARNIに切り替えることにより、インスリン抵抗性に関する各パラメータ(血糖値、インスリン値、など)が有意に改善した。これによってARNIは慢性心不全患者においてNP補充療法としてインスリン抵抗性を改善させる役割を果たすことが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度内に論文化されたものとしては「Close linkage between blood total ketone body levels and B-type natriuretic peptide levels in patients with cardiovascular disorders(Scientific reports 2021)」:心不全患者における血中ケトン体濃度は、その心不全の重症度ではなく、BNPそのものの生理学的作用による影響を受けていることを示した。つまりナトリウム利尿ペプチドはその生理学的作用により、エネルギー基質である血中ケトン体濃度を上昇させ、最終的に心臓エネルギー代謝の活性化させている可能性を示した。 2022年度内に論文化されたものとしては「Effects of angiotensin receptor-neprilysin inhibitor on insulin resistance in patients with heart failure (ESC Heart Failure 2023)」:慢性心不全において、通常の治療薬であるACE阻害薬またはARBをARNIに切り替えることにより、インスリン抵抗性に関する各パラメータ(血糖値、インスリン値、など)が有意に改善した。これによってARNIは慢性心不全患者においてNP補充療法としてインスリン抵抗性を改善させる役割を果たすことが示された。
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Strategy for Future Research Activity |
臨床研究ではさらに症例数を増やしていく予定である。さらにNP補充療法としてARNIが血中ケトン体濃度、さらには心臓エネルギー代謝にどのような影響を及ぼすのか、明らかにする。心不全症例に対してNP補充療法を行うことにより、血中ケトン体濃度が上昇し、さらにそれが心臓組織におけるケトン体取り込み上昇と一致するのか、圧負荷誘発心不全モデルマウスを用いた基礎研究で検討を行う。
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Causes of Carryover |
予定した研究が一部開始できていないため、次年度使用額が生じた。準備ができ次第、今年度中に開始していく予定である。
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