2021 Fiscal Year Research-status Report
日本人特有のゲノム変異に基づく難治性血管病の病態解明と新規創薬ターゲットの検索
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21K16065
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
平出 貴裕 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任助教 (20897673)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 肺動脈性肺高血圧症 / ゲノム解析 / オミクス解析 / 全身血管病 / 指定難病 / 病態解明研究 / 個別化医療 |
Outline of Annual Research Achievements |
RNF213 R4810Kバリアントはヒトにおいて肺動脈性肺高血圧症の疾患発症感受性遺伝子であり、従来の血管拡張薬への反応性が乏しく、予後不良と関連することを報告した。またもやもや病や末梢性肺動脈狭窄症など複数の難治性血管病において疾患発症と関連することが報告された。一方でRNF213 R4810Kバリアントは日本人の健常者でも1%弱に認める変化であり、浸透率が低いことが特徴である。発症原因の特定、および新規治療薬を開発することで、複数の難治性血管病に対する加療が可能となる。マウスのRNF213遺伝子にR4828K変異(ヒトのR4810Kに相当)をCRISPR-Cas9システムを用いて導入した。常酸素下では肺高血圧症を発症しなかったが、10%低酸素環境に3ヶ月間暴露すると肺高血圧症を惹起した。肺マイクロアレイ解析では細胞増殖や血管炎症に関わる因子が複数変動しており、その一部を阻害する薬剤を追加投与すると、右室や肺血管のリモデリングを有意に抑制し、肺高血圧症は軽症であった。今後は肺組織のうちどこに作用するのか、分子メカニズムを含めた解析を進めていく。 また肺以外の臓器においても血管病変の評価を行ったが、現時点では有意な変化を認めていない。既報でもR4828Kバリアントの過剰発現モデルでも脳血管障害は発症しておらず、臓器ごとに表現型が異なる可能性が示唆された。実臨床でも、同一遺伝子変化を持ちながら患者ごとに発症する血管病変は異なるため、エピジェネティックな修飾因子や環境因子が疾患発症に関連すると考えており、今後も発症メカニズム解明に向けて研究を行う。 RNF213 R4810K陽性の患者は、従来の肺血管拡張薬への反応性が乏しく、診断からの平均余命は数年と短い。新規肺高血圧症治療薬開発に向けて研究を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CRISPR-Cas9システムを用いてマウスにRNF213 R4828K変異を導入(ノックイン)することに成功した。低酸素負荷により有意な右室や肺動脈のリモデリング、肺高血圧症を惹起した。これは低酸素環境においてみられた変化であり、常酸素環境では誘発されなかったことから、RNF213 R4828K変異は疾患発症原因というよりは発症関連遺伝子であることが示唆された。マウス肺組織からmRNAを抽出し、cDNAにしたのちにマイクロアレイ解析を行い、発症原因因子を複数個同定することができた。いずれも細胞増殖や炎症に関連する因子であり、従来の肺高血圧症発症メカニズムに矛盾しない結果であった。複数の候補因子があり、ある因子へ阻害薬を追加することで、低酸素環境下でのRNF213 R4828Kヘテロノックインマウスにおいて、有意に肺高血圧症を軽減でき、着目していた因子がヒトにおけるRNF213 R4810K変異に伴う肺高血圧症発症に関連していることが示唆された。一方で、候補因子は体の大半で発現しており、また炎症カスケードの比較的下流に位置するため、どのようなメカニズムで肺血管リモデリングに繋がっているかの解明が必要である。また人への応用を考慮した際に、候補因子がバイオマーカーとして有用であるかの検証が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
同定した肺高血圧症発症関連因子に関して、蛍光免疫染色やウエスタンブロット、FACS、RT-qPCRやシングルセル解析などを行い、肺組織においての発現部位や発現量を野生型およびRNF213 R4828Kヘテロノックインマウスで比較する。バイオマーカーとしての有用性を確認するため、マウスおよびヒトの血清を用いて、ELISA法を用いて発現量を確認する。発現パターンを認識したのち、ヒトでのRNF213 R4810K変異を持った患者の剖検肺組織を用いてマウスとヒトでの相違を確認する。これらの研究はすでに倫理委員会より承認されている。 肺以外の臓器における表現型も確認しているが、低酸素環境では肺ほどの表現型は出現していない。脳組織において血管病変を惹起するのに、別の環境要因が必要な可能性があり、今後もやもや病マウスモデル作製、また病態解明について実験を進めていく。 RNF213 R4828Kノックインマウスにおける病態解明がなされたら、ヒトでの治療にむけた創薬を検討していく。着目した因子の構造解析データを用いて、既存の薬剤または新規薬剤で肺血管リモデリングを抑制できる化合物をスクリーニングし、実臨床への応用に向けて研究を遂行していく所存である。
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Causes of Carryover |
1年目はマウスの管理や阻害薬実験が主な使用用途であり、今後得られた資料の解析として肺や心臓の追加マイクロアレイ解析やsingle cell解析、FACSなど2年目に費用がかさむことが予想されたため、次年度繰り越しとした。
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