2022 Fiscal Year Research-status Report
好中球を標的とした重症薬疹の治療機序解明と治療戦略の創出
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21K16223
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
木下 真直 山梨大学, 大学院総合研究部, 臨床助教 (90813717)
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Project Period (FY) |
2021-11-01 – 2025-03-31
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Keywords | Stevens-Johnson症候群 / 中毒性表皮壊死症 / 好中球 / NETs |
Outline of Annual Research Achievements |
Stevens-Johnson症候群(SJS)/中毒性表皮壊死症(TEN) 初期において、活性化した好中球が表皮内に浸潤し、Neutrophil extracellular traps (NETs) を形成することで、表皮細胞死が惹起することを報告している(Kinoshita M, Ogawa Y, Abe R, and Kawamura T et al., Science Translational Medicine, 2021)。 SJS/TENの既存治療薬がNETsを中心とする病態にどのように作用するかを明らかにするため、本研究ではまずSJS/TEN 患者血清で誘導される NETs が、SJS/TENの世界的標準治療薬である 副腎皮質ホルモン(デキサメタゾン)、免疫抑制剤(シクロスポリン)、抗TNF-α抗体 によって抑制されるか否かをin vitroで検討した。 具体的には健常人由来の好中球にSJS/TEN患者血清を添加して培養し、免疫染色にてNETs形成を観察する実験系を用いた。SJS/TEN血清刺激によるNETs形成は、薬剤血中濃度と同濃度のデキサメタゾン、シクロスポリン、抗TNF-α抗体のいずれによっても抑制されなかった。 そこで、内因性NETs分解酵素であるDNasesに着目した。循環中で作用することが知られているDNase1, DNase1-Like3はNETsを効率的に分解した。 さらに、SJS/TEN患者血清中のDNase1やDNase1-Like3濃度は、健常人、播種状紅斑丘疹型薬疹、薬剤性過敏症症候群、全身性エリテマトーデス、尋常性乾癬などと比較して有意に低下していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
既存治療薬である 副腎皮質ホルモン(デキサメタゾン)、免疫抑制剤(シクロスポリン)、抗TNF-α抗体 のいずれかがNETsを抑制する、という仮説のもと抑制効果を調べたが、in vitroの実験系ではいずれの薬剤もNETsを抑制しえなかった。 しかしながら、DNase1やDNase1-Like3といった循環で作用しうる内因性DNaseがSJS/TEN血清誘発性のNETsを分解できることが分かり、DNase補充療法がSJS/TENに対する新規治療薬候補となることがわかった。 また、SJS/TEN患者血清中のDNase1やDNase1-Like3濃度が低下していたことから、何らかの原因による生体内におけるNETs分解酵素系の減弱がSJS/TENで見られる異常なNETs形成の一因となっていることがわかった。 当初の仮説とは異なる結果となったが、DNaseが病態に則したSJS/TENの治療法となる可能性を秘めていることが判明し、研究の道筋がついた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はSJS/TENの血中、組織におけるDNase1, DNase1-Like3の発現が定常状態とSJS/TENのそれぞれにおいて、どのように制御されているか、またSJS/TENの治療薬として応用できるかについて検討する予定である。 またDNaseは直接的にNETsを分解できるため、SJS/TENの新規治療薬を開発する上でのターゲットとなりうるが、これとは別にNETs自体を抑制する分子の探索を引き続き行う。 東京大学創薬機構より提供されている Validated Compound Library(既存薬 約1600 サンプル、既知薬理活性試薬 約1900サンプル) を用いて、これら化合物ライブラリの中から NETs を抑制する薬理作用を有する既存薬や既知薬理活性試薬を選出する。 すなわち、ドラッグ・リポジショニングによって SJS/TEN の新規治療薬につながる化合物を探索することを目指す。 また、NETs シグナルに重要な Ca2+ 動態、PLC・PKC 活性、ROS 活性、NADPH oxidase 活性が、ライブラリから見つけたNETs抑制物質の添加により好中球にどのように作用するかを、 Ca2+ イメージングならびに分子生物学的手法により明らかにする予定である。
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Causes of Carryover |
来年度はsingle cell RNA sequenceなど試薬費のかかる解析を行う予定であるため、今年度の残額を繰り越して次年度に使用する予定である。
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