2021 Fiscal Year Research-status Report
小児感染症の抗微生物薬治療効果向上にむけての薬理学的アプローチを用いた探索研究
Project/Area Number |
21K16332
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Research Institution | National Center for Child Health and Development |
Principal Investigator |
庄司 健介 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 小児内科系専門診療部, 医師 (60827559)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 薬物動態 / 母集団薬物動態解析 / 抗微生物薬 / 小児 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、①小児重症感染症患者における抗微生物薬の治療効果や予後に関連する因子を明らかにすること、②抗微生物薬の薬物動態に影響を与える因子と、その影響の大きさおよび特徴を明らかにすること、③それらを踏まえた上で、最適な投与設計について検討することである。 研究の初年度である2021年度は肝移植後の小児患者のバンコマイシンの母集団薬物動態解析を実施し、従来知られていた腎機能に加えて、移植から期間も薬物動態に影響を与えていること、本患者群では標準的な投与量では十分な血中濃度に達することができない可能性が高いことを示した。さらに作成された薬物動態モデルを使用したシミュレーション解析にて、腎機能や移植後の期間にごとのバンコマイシンの適切な投与設計の検討も行った。これらの結果は英文誌(Microbiol Spectr. 2021;9:e0046021)に掲載された。 また、新生児の単純ヘルペス髄膜脳炎で、高用量アシクロビルで治療された症例の、血液中、髄液中のアシクロビル濃度を測定し、薬物動態解析を実施した。その結果、従来の成人での報告に比べて、新生児の症例では、髄液へのアシクロビルの移行性が高い可能性が示唆された。本症例報告は英文誌(J Infect Chemother. 2022:S1341-321X(22)00101-5)に掲載された。また、その他にも今後のさらなる検討に備えてダプトマイシンやシドフォビルなど、いくつかの薬剤の血中濃度測定系を確立した。 このように、2021年度に関しては1件の研究論文、1件の症例報告を英文誌に掲載することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では抗微生物薬の薬物血中濃度測定、薬物動態解析を行い、固形臓器移植、造血幹細胞移植、血液透析などの高度先進医療を受けている、または重篤な病態であるなどの理由で通常の薬物動態を示さない可能性がある患者群における様々な抗微生物薬の薬物動態を明らかにすること、そして可能であればそれぞれの状況に合わせた適切な投与設計の検討をすることを目的としている。2021年度は初年度であったが、まずは、今後の研究の実施に必要ないくつかの薬剤(ダプトマイシンなど)の薬物濃度測定系を開発することができた。また、それにとどまらず、肝移植後患者や、新生児単純ヘルペス脳髄膜炎患者という、通常の薬物動態を示さない可能性がある患者群を対象とした薬物動態の検討を実施することができた。肝移植後患者に対するバンコマイシンの薬物動態研究では、その薬物動態の特徴を明らかにしただけでなく、患者の状況に応じた適切な投与設計の検討まで実施することができたこと、その成果を英文誌に報告することができたことから、初年度としては概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、現在測定可能となっている抗微生物薬の血中濃度測定系を維持し、必要時に迅速に測定できる体制を構築する。また臨床現場のニーズに合わせて、血中濃度測定、薬物動態解析をする必要性が高い抗微生物薬に対して新たな血中濃度測定系を確立していく。薬物血中濃度測定を実施した症例については、可能な限り症例報告という形で英文誌、または邦文誌へ投稿する。そして十分な症例数が集積された時点で、母集団薬物動態解析を実施し、ある抗微生物薬の薬物動態の、特定の集団における特徴を明らかにする。またそれにより作成された薬物動態モデルを用いて、モンテカルロシミュレーションによるシミュレーション解析を実施し、それぞれの患者の状況に応じた適切な投与設計についての検討を行う。また発展的な検討としては、薬物動態のみならず薬力学的な検討、すなわち、Time above MICやCpeak/MIC、AUC/MICなどのいわゆるPK/PDパラメーターと、臨床的な効果(解熱までの期間、治癒率など)の関連にまで踏み込んだ解析を行うことも念頭に研究を進めていく。最終的には、これらの研究を通じて得られた成果を元に、患者の状態ごとにTherapeutic drug monitoring (TDM)による個別に最適な治療を提供することで、重症感染症患者の予後の改善を目指す。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、国内、国際学会に参加することが困難な状況となり、旅費、参加費等で支出する予定であった金額に残が生じたことや、コロナ禍による非コロナ患者の受診減少や、感染対策上の理由から研究参加同意の取得が困難な状況が生じたため、予定よりも薬物動態解析を実施する患者数が少なかったことなどが原因である。次年度についてはコロナ禍による行動制限等も緩和されていく方向性にあることから、積極的な薬物動態解析の実施や、学会参加、論文執筆等を行う資金として使用する計画である。
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