2021 Fiscal Year Research-status Report
治療戦略創出を目指したSARS-CoV-2経肺感染モデルマウスに関する基盤研究
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21K16333
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Research Institution | National Institutes of Biomedical Innovation, Health and Nutrition |
Principal Investigator |
内海 大知 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター, プロジェクト研究員 (70880871)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | SARS-CoV-2 / variant of concern / hACE2 Tg mouse |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、下記項目について検討を行った。 1)SARS-CoV-2感染モデルマウスの作成と病態解析:SARS-CoV-2をヒトACE2遺伝子発現(hACE2 Tg)マウスに経肺感染することで、感染ウイルス量依存的な体重減少と生存率低下を引き起こすことに成功した。感染マウスの肺では経日的な組織損傷が認められた。また、感染2日後には肺、7日後には脳でサイトカインとケモカインmRNAが上昇し、ウイルスNタンパク質の発現、ウイルス力価とRNAコピー数上昇が認められた。 2)全身性の影響:感染0、2、4、7日後における血漿を採取し,サイトカインやケモカイン、免疫細胞、血栓症などに関わる因子としてD-ダイマーとFDPを評価した。感染ウイルス量依存的な各種ケモカインの産生上昇が認められた。また、樹状細胞や好中球などの増加が認められた。一方、D-ダイマーやFDPに変化は認められなかった。これらの結果より、本モデルマウスはヒトCOVID-19の病態を完全に反映できていないことが考えられた。 3)SARS-CoV-2感染マウスを用いた医薬品の評価:医薬品評価系としての有用性を示すため、hACE2 Tg マウスにSARS-CoV-2 RBDタンパクを免疫したマウスから採取した血漿(中和抗体)、あるいは抗ウイルス薬であるレムデシビルを投与し、SARS-CoV-2感染後の体重減少率と生存率を評価した。結果として、中和抗体またはレムデシビルの投与は体重減少および生存率低下を改善した。 感染が脳へと進行した理由は不明だが、本モデルマウスの生存率低下はSARS-CoV-2が脳に感染したことによる脳炎が原因であると考えられた。一方、中和抗体やレムデシビルの投与はSARS-CoV-2感染による体重減少および生存率低下を改善したことから、本モデルマウスは医薬品を評価するための動物実験系として有用であると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
想定していたよりも早期にモデルマウス樹立に至り、一部検討項目を前倒しで行なったため。 本マウスはSARS-CoV-2の経肺感染により、肺炎と経日的な体重減少を伴った急性肺損傷が惹起され、最終的には致死性の脳炎を引き起こした。また、より簡易的な投与方法である経鼻投与で感染を試みたが、経肺投与で認められた感染ウイルス量依存的な体重減少や生存率低下は経鼻投与では認められていない。ヒトCOVID-19の病態を反映しているか評価するため、肺局所から全身に至る炎症応答ならびに過剰な免疫応答に着目したが、サイトカインストームのような全身性の免疫応答は認められなかった。したがって、本モデルマウスはヒトで認められる病態の一部をモデル化していることが明らかとなった。一方で、中和抗体や抗ウイルス薬の予防的投与により、SARS-CoV-2感染に対する防御効果を示したことから、医薬品を評価するための動物実験系として有用であると考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度には、SARS-CoV-2の懸念される変異株(アルファ、ベータ、ガンマ、デルタおよびオミクロン株BA1/BA2など)を用いて、体重減少率や生存率低下に違いが認められるのか、急性肺損傷の増悪や肺局所における免疫応答、炎症応答に違いが認められるのかを比較検討していく。 現在COVID-19に認可されている中和抗体医薬品や抗ウイルス薬の有効成分(ゼビュデュイ、レムデシビル、モルヌピラビルなど)を用いて、SARS-CoV-2(変異株含む)感染後に投与を行い、防御効果を示すか検討し、医薬品評価系としての有用性をさらに高めていく。
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Causes of Carryover |
予備検討の段階で本病態モデルマウスはヒトCOVID-19の病態の一部を反映していることが判明し、当初予定していた免疫学的実験を行わなくなったため。ここで使用しなかった物品費は、ソトロビマブやモルヌピラビル、ニルマトレルビルなど医薬品の有効成分購入費に充て、SARS-CoV-2感染後の投与による感染防御効果に関する評価を行い、本モデルマウスが治療薬の評価ツールとして有用であるか検討する。
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