2021 Fiscal Year Research-status Report
中枢を介した成長や老化、糖代謝制御の分子機構の解明
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21K16347
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Research Institution | National Institutes of Biomedical Innovation, Health and Nutrition |
Principal Investigator |
林 高則 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 国立健康・栄養研究所 臨床栄養研究部, 室長 (50749257)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | インスリン受容体基質(Irs)1 / 成長障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
中枢におけるIrs1の役割を明らかにすべく、神経に選択性の高い発現を誘導するNestin遺伝子の制御下にCre蛋白を発現するNestin-Creマウスと、Irs1遺伝子領域をloxP配列で挟んだIrs1 floxマウスから脳特異的Irs1欠損マウス(NIrs1KOマウス)を作成し解析を行った。これまでに本マウスが低全長、低体重を来すことを明らかとしていたが、さらにCTを用いた解析を行った結果、NIrs1KOマウスは全長と同様に大腿骨長や脛骨長が有意に短く、また骨密度が低値であることが明らかとなった。一方、各臓器の体重に対する重量比は対照マウスと差を認めず、NIrs1KOマウスは骨形成障害を伴う均整の取れた成長障害を呈していることが明らかとなった。そこで成長障害のメカニズムを明らかにすべく、成長ホルモン(GH)やIGF-1の測定を行った結果、NIrs1KOマウスでは下垂体におけるGH及び肝臓におけるIGF-1のmRNA発現量、さらにはこれらの血中濃度が有意に低値であった。一方興味深いことに、下垂体においてGH分泌を強力に刺激するGHRP-2の投与を行うと、NIrs1KOマウスの血中GH濃度は対照マウスと同程度まで上昇を認めたことから、本マウスの成長障害は下垂体そのものではなくさらに上流の視床下部に原因がある可能性が示唆された。そこで視床下部の成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)及びソマトスタチンの発現を検討すると、NIrs1KOマウスではGHRHのmRNA発現量が有意に低値であった。また視床下部におけるGHRHの免疫染色を行った結果、NIrs1KOマウスではGHRHの染色性が弱く、蛋白レベルでGHRH発現が低下していることが明らかとなった。以上の結果から、NIrs1KOマウスは、視床下部におけるGHRHの発現が低下した結果、成長障害を来したことが強く示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今回我々は、Nestin-Creマウスを用いた脳特異的Irs1欠損マウス(NIrs1KOマウス)を作成し、その解析を行っている。Nestin-Creマウスは脳特異的な遺伝子欠損マウス作成に際して多くの研究で利用されている一方で、このNestin-Creマウス自身に成長や代謝に関する表現型があることなど、問題点も報告されている。そこで本研究ではNestin-Creマウス自身の成長や代謝の表現型による実験結果の誤った解釈を防ぐため、NIrs1KOマウスの解析にあたっては、対照マウスとしてNestin-Creマウスを用いている。さらに我々は、Nestin-Creマウスによる成長や代謝への影響を完全に除外するために、ニューロンマーカーであるSynapsinⅠのプロモーターからCreを発現するトランスジェニックマウス(Synapsin-Creマウス)とIRS-1 floxマウスからもう1つの脳特異的IRS-1欠損マウス(Syn-Irs1KOマウス)を作成しその解析を進めているが、新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言等の影響もあり、当初の予定より進捗はやや遅れた。
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Strategy for Future Research Activity |
中枢におけるIrs1の成長に関する役割を明らかのするために、Synapsin-Creマウスを用いて作成したもう1つの脳特異的Irs1欠損マウス(Syn-Irs1KOマウス)の成長に関する解析を進めていく。 またこれまでに我々は、NIrs1KOマウスはインスリン感受性が亢進しており、耐糖能が良好であることを見出している。そこで脳特異的Irs1欠損マウスのインスリン感受性亢進や良好な耐糖能の詳細なメカニズムを明らかにするために、各臓器でのインスリンシグナルの評価やグルコースクランプ試験等を行い、その責任臓器を明らかとする。 またニューロンは軸索や樹状突起を介して別のニューロンとつながり合い複雑な神経回路網を形成している。そのためマウスの解析で得られた神経内分泌的な表現型が、別のニューロンで起きた変化の結果生じた二次的なものである可能性も否定できないが、我々はこれまでにGHRHニューロンとIrs1の局在を明らかにするために野生型マウスの脳におけるこれらの免疫組織染色を行い、GHRHの染色部位にほぼ一致してIrs1が視床下部正中隆起部位に強い染色性を示すことを見出している。そこでさらにIrs1がGHRHニューロンに発現しているかどうかを蛍光二重染色で検討する。さらにGHRHニューロンにおいて細胞レベルでIrs1がどのような役割を担っているかを明らかとするため、GHRH産生神経細胞を用いたin vitroでの検討を進めていく。
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