2021 Fiscal Year Research-status Report
栄養不良による体重減少の改善を目的とした摂食調節機構の解明
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21K16359
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Research Institution | Hoshi University |
Principal Investigator |
米持 奈央美 星薬科大学, 薬学部, 助教 (50779824)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 摂食調節 / オピオイド / 中枢 / 側坐核 |
Outline of Annual Research Achievements |
加齢に伴う身体機能の低下、抗がん薬による食欲不振や進行がんに合併するがん悪液質では、いずれも体重減少や低栄養、消耗状態が認められる。体重減少が著しく進行すると全身状態の悪化をひき起こす。体重減少は主に食欲不振に起因することから、食事量を増やすことが全身状態を改善させるために重要である。一方、当研究室ではこれまでにκオピオイド受容体拮抗薬を投与すると摂餌量の減少が認められることを明らかにしている。κオピオイド受容体の拮抗によって摂食行動が抑制されることから、κオピオイド受容体を刺激することで、摂食促進作用が認められる可能性がある。一方、nalfurafine は臨床で用いられるκオピオイド受容体作動薬であり、透析患者および慢性肝疾患患者の掻痒症に適応がある。また、nalfurafineは他のκオピオイド受容体作動薬とは異なり、嫌悪感を生じないことが知られている。したがって、臨床で既に使用され、安全性が確認されているnalfurafine が摂食調節薬となる可能性がある。そこで、本研究では nalfurafineおよびκオピオイド受容体作動薬の研究試薬であるU50,488Hを用いて、摂食調節における κ オピオイド受容体の役割を検討した。 令和3年度に行った研究の結果、nalfurafineは中枢神経系を介して摂食促進作用を示すことが明らかとなった。また、nalfurafineによる摂食促進作用に対する視床下部外側野やorexin神経の関与は少ないことが示唆された。さらに、nalfurafineは側坐核のκオピオイド受容体の刺激を介して摂食行動を促進させることが明らかになった。 以上の本研究成果より、nalfurafineは側坐核のκオピオイド受容体を刺激することで、摂食行動を促進させることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和3年度はほぼ計画通りに研究を実施し、以下の成果を得た。 まず、κオピオイド受容体作動薬のnalfurafineおよび U50,488H (U50) が摂餌量に与える影響を検討した。各薬物の末梢投与により摂餌量が増加し、この作用はκ受容体拮抗薬であるnorbinaltorphimine (norBNI) の前処置により抑制された。この結果から、nalfurafine および U50はκオピオイド受容体を介して摂食行動を促進することが示された。 次に、この作用が中枢神経系または末梢組織のどちらを介して発現するか検討した。その結果、nalfurafine の誘導体で血液脳関門を通過しないnalfurafine methiodideを末梢投与しても摂餌量は変化しなかった。一方、nalfurafineの脳室内投与により摂餌量は増加した。これより、nalfurafine は中枢神経系を介して摂食行動を促進することが示された。 NalfurafineおよびU50による摂食促進作用に摂食促進ペプチドのorexin神経が関与するか検討した。その結果、この作用はいずれもorexin OX1受容体拮抗薬であるYNT1310の併用により抑制されなかった。さらに、この作用が摂食中枢と称される視床下部外側野 (LH)を介して発現するか検討したが、LHへnalfurafineおよびU50を投与しても、摂餌量は変化しなかった。 そこで、nalfurafineおよびU50による摂食促進作用に食の嗜好性を司る側坐核 (NAC) が関与するか検討した。NACへのnalfurafineの投与により摂餌量は増加し、この作用はnorBNIの併用により抑制された。一方、U50をNACに投与しても摂餌量は変化しなかった。 以上より、nalfurafine の摂食促進作用にはNACのκオピオイド受容体が関与することが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度の研究成果より、nalfurafine およびU50,488Hはいずれも摂食促進作用を示し、なかでもnalfurafineの作用には側坐核のκオピオイド受容体が関与することが示唆された。そこで、令和4年度は、この作用に関与する神経伝達物質を明らかにする。具体的には、nalfurafine およびU50,488Hの投与により、側坐核の神経伝達物質が変化するかin vivo microdialysis法を用いて測定する。変化が認められた際には、その部位に存在する神経伝達物質の作動薬または拮抗薬を投与し、κオピオイド受容体作動薬の摂食促進作用が変化するか測定することで、どの神経がこの作用に関与するかが明らかになる。 また、κオピオイド受容体による摂食調節にペプチド神経が関与するか検討するため、nalfurafine およびU50,488Hを投与し、RT-PCR法を用いて視床下部における各種神経ペプチドのmRNA発現量を測定する。さらに、nalfurafine およびU50,488Hにペプチド受容体の作動薬・拮抗薬を併用して摂餌量を測定し、κオピオイド受容体の刺激による摂食促進作用がペプチド神経を介するか明らかにする。 NalfurafineやU50,488Hが摂食促進作用をひき起こしたことから、食欲不振や体重減少を呈する動物モデルにおいて、症状を改善できる可能性がある。そこで、フルオロウラシルやシスプラチン、イリノテカンなどの抗がん薬を投与したマウスにnalfurafine およびU50,488Hを併用し、摂餌量や体重の変化を測定する。これにより、nalfurafineまたはU50,488Hが食欲不振や体重減少に対して改善効果を示すかが明らかになり、nalfurafineが新規摂食調節薬として抗がん薬による食欲不振の治療に応用できるか確認する。
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