高齢者の食道癌を悪性化させるメチルマロン酸のメカニズム～治療応用へ～

2021 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 21K16445
• Research Institution: Osaka University
• Principal Investigator: 松浦 記大 大阪大学, 医学系研究科, 招へい教員 (90804477)
• Project Period (FY): 2021-04-01 – 2023-03-31
• Keywords: 食道癌 / 高齢者 / EMT / メチルマロン酸

Outline of Annual Research Achievements

高齢者の食道癌と、悪性化の指標となりうる上皮間葉転換（Epithelial Mesenchymal Transition：EMT）とが関連があるのかどうかを検討することとし、後ろ向きにデータを収集するとともに臨床サンプルを用いて組織免疫染色を行なった。食道癌の術前化学療法を行なっていない手術症例135例を対象に、65歳以上か65歳未満かで病理学的な食道癌の進行度（進達度、リンパ節転移、遠隔転移）を比較したところ、65歳以上の方が、進達度は深く、リンパ節転移が多く、病理学的ステージが進行しているという結果であった。そしてこれらの臨床サンプルを用いて組織免疫染色を行なった。パブリックデータベースにおいて食道癌ではNotchシグナル関連タンパクの変異が多いこと、またNotchシグナルがEMTとの関連を持っているという過去の報告があることを踏まえ、Notchシグナルを制御していると報告のあるMusashi2による染色を行なった。その結果、65歳以上では食道癌細胞においてMusashi2の発現が有意に多いことが分かった。以上より、高齢者の食道癌においてMusashi2-Notchシグナルにより制御されるEMTが生じ、リンパ節転移などに関連があることが示唆された。
臨床データとの関連を評価しながら、仮説にあるようにメチルマロン酸（MMA）と食道癌のEMTとの関連の検討を行っている。MMAが蓄積するとミトコンドリアの機能障害が起こることが報告されており、現在ミトコンドリアの機能障害とEMTの誘導について検討を重ねている。ここにMMAとEMTとの関連を裏付けるメカニズムがある可能性を感じており現在その検討を進めている。

Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

臨床サンプルにおいて、仮説である「高齢者では癌の悪性度が高く、その要因としてEMTがある」ということを証明することができ、また間接的にではあるがそのメカニズムの一端を担うMusashi2の発現との関連を見つけることができた。またより深いメカニズムの追求を行うために現在は細胞レベルでの実験を行っているが、少しずつ結果が出始めてはいるもののMMAとEMTとの直接的な関連を検討できていない。MMAはミトコンドリア機能障害を介してEMTを誘導する可能性があると考え、今後も検討を重ねる予定である。

Strategy for Future Research Activity

年齢と食道癌の悪性化においては仮説と一致するデータが出ていることや、詳細なメカニズムを検討できるデータもでていることから、仮説に基づいて実験を進めていく。臨床サンプルでの検討も引き続き行うとともに、細胞レベルでの検討も行い、今後はこの研究で着目しているビタミンB12やMMAについても検討を行うことを考えている。

Causes of Carryover

今後、細胞実験や動物実験を行うなかで試薬の購入や動物の購入・維持などに費用がかかることが想定される。具体的には、今後はこの研究で着目しているビタミンB12やMMAを用いた実験を考えている。大学内で利用できる共通機器などを極力用いて出費を抑える努力をしているが、個々の実験で用いる試薬などは購入する必要があり、次年度使用額が生じるものと考える。