2021 Fiscal Year Research-status Report
低侵襲化を目指した心筋保護液の開発 ~虚血合併心筋に対する虚血許容時間の延長~
Project/Area Number |
21K16503
|
Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
井上 天宏 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (00349557)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 心筋保護液 / 心停止 / 心筋虚血 / 再灌流障害 / ビタミンB1 |
Outline of Annual Research Achievements |
ビタミンB1を添加した心筋保護液を作成し、まずマウスのランゲンドルフ心を用いて実験を行った。C57BL/6マウスを深麻酔下に開胸、心臓を摘出してランゲンドルフ装置に設置した。上行大動脈よりカルシウム濃度1.8mMのKrebs-Henseleit(KH)液の逆行性灌流を10分間行い、心拍が安定したところで心筋保護液に切り替えた。心筋保護液の組成により二群に分けた。臨床で使用されているミオテクター心筋保護液(Miotector: Na+120.0, K+16.0, Ca2+2.4, Mg2+32.0, Cl-160.4, HCO3-10.0mEq/L)を使用した群(MT群, n=4)と、ミオテクター液に300uMのThiamine Pyrophosphate(Vitamin B1)を添加した群(MTV群, n=4)に分け、単回投与にて心停止を得たのち40分間の虚血を施した。その後カルシウム1.8mM-KH液を用いて60分間再灌流を行ったところで実験を終了、マウス心をランゲンドルフ装置から取り外し、右室心筋と左室心筋に分けて採取し、炎症・アポトーシス関連遺伝子のmRNAの発現をPCR法にて分析した。 結果として、まず両群すべてのランゲンドルフ心において再灌流後に心拍は再開し、60分間の再灌流中、心拍は維持されていた。Quantitative PCR解析では、アポトーシスの前段階で発現するCaspase系、ミトコンドリア障害因子でありプログラム細胞死へ誘導するm-AIF, Bad, Bak, Bax、細胞死抑制因子であるp70S6K, p90RSKは、右室および左室心筋で、MT群、MTV群ともにmRNAの発現に有意差は認めなかった。しかしながらBcl-2の発現に関しては、右室心筋では両群間で有意差を認めなかったが、左室心筋においてはMTV群で有意に低下していた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本実験におけるプロトコールは、エンドポイントまでの時間経過が非常に短く、超急性期の虚血・再灌流障害を目的とした実験系となっていたため、ビタミンB1添加の心筋保護液の効果をmRNAレベルで正確に分析することは難しいと考えられた。そのため次年度はこれまでの実験プロトコールを一部変更することがまず必要であると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
Bcl-2ファミリーは一般的には抗アポトーシス作用を有する一連のタンパク質群であるが、対照的に組織障害における細胞死誘導の際にもその発現が上昇するとの報告もあるため、MTV群における左室心筋でのBcl-2発現低下に関してはさらなる検討が必要である。また本研究における実験プロトコールの経時性を考慮すると、アポトーシスあるいは抗アポトーシス関連タンパク質のリン酸化レベルに関しては群間で変化している可能性があり、検討の余地がある。 実験プロトコールの変更にあたっては、以下の点を検討している。虚血時には基本的には嫌気下の解糖系によるATP産生が行われるが、これは好気下のTCAサイクルおよび電子伝達系と比較すると非常に効率の悪いエネルギー産生系である。しかしながら大量のグルコースと適度なインスリンを心筋保護液あるいは虚血前に加えておくことで、虚血時のエネルギー産生とその貯蔵を促進することができ、再灌流時の心筋障害を軽減できるのではないかと考えている。組織代謝関連としてミトコンドリアのATP産生能やオルガネラ形態を観察することも、心筋保護液に添加されたビタミンB1の心筋保護効果を検証するために必要であると考えている。
|
Causes of Carryover |
RNA抽出に使用した薬剤やPCR解析で使用したキット、プライマーなどは当教室ですでに保有していたため、これらの購入費を削減することができた。次年度では、組織サンプルからのタンパク質を抽出する薬剤やウエスタンブロット法に用いるリン酸化抗体等を購入する予定である。
|