2023 Fiscal Year Research-status Report
ケミカルダイレクトリプログラミングによる肺胞上皮細胞誘導法の開発
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21K16514
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
土肥 良一郎 長崎大学, 病院(医学系), 助教 (00817786)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 肺再生 / ダイレクトリプログラミング / 線維芽細胞 / 2型肺胞上皮細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は第一に、肺常在の線維芽細胞を肺胞上皮細胞へ誘導するケミカルダイレクトリプログラミング法を開発することである。第二に、脱細胞化によって得られた生理的な3次元の臓器特異的な空間的鋳型を用いて、生体内の複雑な肺構造内における線維芽細胞の上皮細胞への時空間的な誘導過程を捉えることである。将来的な低分子化合物による生体内肺再生治療の実現へ向けての基礎技術となることが期待される。令和3年度は、研究の第一段階としてリプログラミングの細胞源とするヒト肺組織由来線維芽細胞の選定を開始した。疾患肺において特異的な肺組織常在線維芽細胞を最終的なリプログラミングの標的とするため、疾患肺の手術検体より採取したヒト肺組織から外植片培養により初代細胞を単離し、細胞免疫染色によって初代培養細胞の表現型の探索へ臨んだ。肺組織由来の線維芽細胞は肺全体の30-40%を構成するとされ、線維化に関与する筋線維芽細胞やサーファクタントに含まれる脂肪を供給する脂肪線維芽細胞など複数の表現型が存在するが、常在肺線維芽細胞については定義がまだ曖昧な部分が多く同じ表現型でも複数の同定法が存在しており、初期化の細胞源となる肺特異的線維芽細胞の表現型探索については未完了である。令和4年度は、マウスを用いた研究へ変更し、リプログラミング法の開発へ向けて2型肺胞上皮細胞のレポーターマウスの導入を開始した。同マウスから採取した線維芽細胞を用いることで、ダイレクトリプログラミングによって2型肺胞上皮細胞へ分化したことを明確に証明できるため重要となる。しかし、COVID19感染による研究活動制限や人的要因による研究中断期間(令和4年4月~令和5年3月)が生じ、中断時期の影響から令和5年度も進捗が遅れているが、研究の核心であるダイレクトリプログラミングに必要なパイオニア転写因子の探索を始めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初、疾患肺において特異的な肺組織常在線維芽細胞を最終的なリプログラミングの標的とするため、疾患肺の手術検体より採取したヒト肺組織から外植片培養による初代細胞単離にこだわった。肺組織常在線維芽細胞の定義が曖昧な現状のなか、表現型と同定法の知識の整理が不十分であったために、ヒト初代細胞単離の行程で躓き、時間を消費した。研究の核心であるダイレクトリプログラミングに必要なパイオニア転写因子の探索が遅れており、当初の実験計画よりも実験進捗が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までの計画では、将来の臨床応用の観点からどの表現型のヒト肺常在線維芽細胞を用いるかの決定に重点を置いた。実験の進捗状況を考慮し今後の推進策として、ヒト肺常在線維芽細胞の表現型の選定へ向けた行程を中断し、2型肺胞上皮細胞のレポーターマウスから単離した線維芽細胞を用いて、まず肺胞上皮細胞への運命転換に必要なパイオニア転写因子を同定する。つぎに、オンターゲット効果を増加させる補完的な転写因子を同定し、細胞運命転換の効率化を図る。転写因子の網羅的なスクリーニングでは時間を要するため、転写因子セットを予測するための計算フレームワーク(Mogrify)やCRISPER遺伝子転写活性化スクリーニングによって、必要な転写因子セットを効率的に探索する予定である。最終的には、それらを同時に制御できる化合物の組み合わせの探索していく。
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Causes of Carryover |
研究中断により当初予定していた2型肺胞上皮細胞のレポーターマウスの作出・飼育や、線維芽細胞を用いたリプログラミングに必要な低分子化合物の探索を実施できず、遺伝子改変マウス、細胞培養関連物品、低分子化合物などの購入を見送ったため、次年度使用額として3,238,940円が生じた。翌年度において、実験計画の変更に伴い必要となった遺伝子組み換えマウスを購入するための費用、飼育費、CRISPER遺伝子転写活性化スクリーニングの試薬や検査費用が必要となる。また、当初の実験計画にある、マウスやヒト試料からの細胞単離、細胞培養、組織培養、ウイルスベクターを用いた遺伝子導入、低分子化合物によるダイレクトリプログラミング、脱細胞化細胞外基質の抽出、マイクロアレイによる遺伝子発現解析、分化マーカーの発現解析、転写因子解析、蛍光顕微鏡用による解析、などに必要な試薬を購入するために計上する。さらに、研究成果の発表のための旅費や論文投稿費などに使用する予定である。
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