2021 Fiscal Year Research-status Report
悪性腫瘍の浸潤転移を抑制するタンパク質CLIC2をもとにした膠芽腫治療薬の開発
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21K16611
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
尾崎 沙耶 愛媛大学, 医学系研究科, 助教 (50898799)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | CLIC2 / 脳腫瘍 / 浸潤 / MMP / 血行性転移 / 内皮細胞 / 神経細胞 / マイクログリア |
Outline of Annual Research Achievements |
先行研究で、CLIC2はMMP14に結合し、その活性を抑制することで、悪性腫瘍細胞の浸潤・転移を抑制していることを報告した。本研究では、MMP14の安全な阻害剤として、CLIC2の低分子化合物開発の端緒とすることを目的とした。しかし、特にグリオブラストーマの手術に使用する場合、脳内のCLIC2の生理的な分布や機能についてあらかじめ理解する必要があり、まず正常Wistarラット及びヒト脳組織におけるCLIC2の局在を調べた。その結果、CLIC2が主に発現していたマイクログリアに焦点を当て、研究を進めた。LPS投与実験により、CLIC2とCD68、Cathepsin S、F4/80など貪食関連遺伝子発現は低下し、逆に起炎症性サイトカインの発現は上昇した。また、貪食実験や浸潤実験においては、CLIC2タンパクの添加で貪食能および浸潤能の亢進、CLIC2ノックダウンによってそれらの抑制が確認された。また、CLIC2添加によりMMP14およびMMP9の活性化が確認された。これらの結果から、正常脳内における主たるCLIC2発現細胞であるマイクログリアでは、CLIC2はMMP活性を上昇させることが示され、同時に浸潤能・貪食能亢進にも寄与すると考えられた。 また、CLIC2にはヒト、ラットともにエクソン1からの転写の有無により生じるスプライシングバリアントが存在すると予想されたことから、2種類のバリアント(予測分子量の大小によりCLIC2-L及びCLIC2-Sと呼称)をコードするcDNAに対するプライマーを調製して、RT-PCRを行なった。その結果、実際に2種類のCLIC2の存在が明らかになった。その上で、2種類のバリアントの発現部位や細胞種、細胞内局在を同定するため、CLIC2-Lのみを認識する応対を作成した。CLIC2-Lは主に、血管内皮細胞に発現することを見出している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
我々はこれまでの常識と反して、CLIC2は分泌タンパク質であって腫瘍細胞のMMP活性を抑制して、その浸潤能を低下させることを示した。しかし、今回の研究では、正常脳内における主たるCLIC2発現細胞であるマイクログリアでは、CLIC2はMMP活性を上昇させることが示され、同時に浸潤能も上昇、貪食能も亢進させた。全く相反する結果であり、この結果が正しいのかどうかさらに検討を深める必要がある。 本研究を開始した本来の目的はCLIC2を転移浸潤抑制剤、特にグリオブラストーマ手術に際してCLIC2を何らかの形で応用するというものであり、そのためCLIC2の生理作用を探る必要があると考えたことである。今回の結果を踏まえると、グリオブラストーマ手術において腫瘍摘出時に生じた空間周囲にCLIC2を散布するとした場合、腫瘍細胞の浸潤は抑制されるはずであるが、同時にマイクログリアの貪食能や運動能が亢進することになる。脳腫瘍時のマイクログリアの役割についてはよくわかっておらず、マイクログリアのこのような機能変化が脳腫瘍の進展にどのような影響を与えるのか、更なる研究が必要な結果となった。 さらに、CLIC2には新たなバリアントが存在することを世界に先駆けて明らかにし、CLIC2-Lの主な発現細胞である血管内皮細胞における役割について一層の解明が必要となった。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、ラットC6グリオーマ細胞をラット新生仔脳内に移植するラットグリオブラストーマモデルを作成しており、脳腫瘍塊周辺に集積するマイクログリアの反応、また、腫瘍内の腫瘍関連マクロファージ(TAM)の機能解析を、FACSを用いて行う。さらに、我々が新たに作成した抗体を用いて、免疫組織化学染色を行うとともに、sortingによって分取したTAMとマイクログリアのRT-PCR及びウエスタンブロッティングにより、CLIC2のどちらのバリアントをこれらの細胞が発現しているのか明らかにしたいと考えている。C6細胞を用いた浸潤アッセイ系に、分取したTAMやマイクログリアを添加して、C6グリオーマ細胞の浸潤性がどのように変化するか検討する。その際、C6グリオーマ細胞のMMP活性の変化に着目する。 我々自身の先行研究から、CLIC2はがん細胞の血行性転移の抑制に寄与していることが明らかになっている。また、内皮細胞にはCLIC2-Lが特異的に発現していることも明らかになっている(未発表)。そこで、我々が開発した免疫学的に正常であるWistarラットを用いた肺への血行性遠隔転移モデルを用いて、血管内皮細胞におけるCLIC2の役割を一層明確にしたい。
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[Journal Article] Chloride intracellular channel protein 2 is secreted and inhibits MMP14 activity, while preventing tumor cell invasion and metastasis2021
Author(s)
Saya Ozaki, Akihiro Umakoshi, Hajime Yano, Shota Ohsumi, Afsana Islam, Mohammed E Choudhury, Yusuke Nishi, Daisuke Yamashita, Yoshihiro Ohtsuka, Masahiro Nishikawa, Akihiro Inoue, Satoshi Suehiro, Jun Kuwabara, Hideaki Watanabe, Yasutsugu Takada, Yuji Watanabe, Ichiro Nakano, Takeharu Kunieda, Junya Tanaka
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Journal Title
Neoplasia
Volume: 23
Pages: 754-765
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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