2021 Fiscal Year Research-status Report
変形性関節症において変性軟骨から荷重により遊離し、滑膜病変を引き起こす因子の探索
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21K16722
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Research Institution | Clinical Research Center for Allergy and Rheumatology, National Hospital Organization, Sagamihara National Hospital |
Principal Investigator |
津野 宏隆 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター), リウマチ性疾患研究室, 医師 (90792135)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 変形性膝関節症 / 軟骨 / 荷重 |
Outline of Annual Research Achievements |
軟骨の変性疾患とされてきた変形性関節症(OA)であるが、多くのMRIを用いた疫学研究の結果から、滑膜病変がOAにおいても症状、とくに痛みの発現に深く関与していることが明らかになってきた。OAの滑膜性の痛みは関節置換を行って変性軟骨を取り除けば消退し痛みも大幅に軽減する。この事実から、変性軟骨から遊離する因子が滑膜における痛みの発現に関与することは確実に思われる。さらにOAの症状が軟骨変性部への荷重の軽減で改善することを考えれば、そのような因子は荷重によって変性軟骨から遊離する可能性がある。OA関節で荷重が軟骨組織に及ぼす影響については以前から多くの報告があるが、それらのほとんどは荷重が軟骨あるいは軟骨細胞に与える影響について調べたものであり、本研究のように荷重によって遊離する因子を見出し、OAの病態との関連を検討した研究は見当たらない。軟骨から荷重によって生理活性を持つ因子が遊離するとすれば、そのような因子はOAの病態、とくに滑膜の変化に直接的に関与しうる。したがって本研究は高い独自性がある研究であるとともに、その結果がOAの病態解明に直接役立つ可能性がある点で高い有用性のある研究と考えられる。 本研究の目的は荷重によってOA軟骨から遊離してくる因子を網羅的に同定し、その中でOAの症状の発現と滑膜の変化に関与する因子を明らかにすることである。 我々は、OA関節から変性軟骨を採取し、それに生理的な範囲の荷重を加えて遊離する因子はないか調べた。その結果、滑膜病変に関与しうる因子や痛みの原因となりうる因子が実際にOA軟骨から荷重によって遊離することを見出した。本研究ではこの知見をもとに、抗体アレイおよびiTRAQを用いたプロテオーム解析を行って変性軟骨から荷重により遊離する因子を網羅的に同定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度の2021年度前半はOA軟骨の採取を進めた。人工関節置換の際にOA膝関節の肉眼的な変性部(変性軟骨)および非変性部(非変性軟骨)からそれぞれ軟骨を全層にわたり採取した。また大腿骨頸部骨折の手術の際に病的所見のない大腿骨頭からも軟骨を採取した(対照軟骨)。検体数は対照例、OA例とも各10例。なおOA例において変性軟骨、非変性軟骨は同一関節からペアで採取した。軟骨組織は採取後、PBS中で徹底的に洗浄したのち表面積と質重量を計測し、解析まで-80℃に保存した。 2021年度後半には保存していた軟骨組織をPBS中に置いた状態で力学試験機を用いて平地歩行の際に膝関節の軟骨に加わる荷重に相当する1MPaの荷重を60回、繰り返して加えることで軟骨からタンパクをPBS中に遊離させた。このPBS(荷重抽出液)を回収して以後の解析に用いた。 遊離タンパクの解析では変性軟骨、非変性軟骨、対照軟骨について荷重抽出液の抗体アレイによる解析を行い、さらに変性軟骨と対照軟骨からの荷重抽出液についてiTRAQ(Isobaric Tag for Relative and Absolute Quantitation)を用いたプロテオーム解析を行って抽出液に含まれるタンパクの網羅的・定量的な比較を行った。 抗体アレイによる解析ではMIFやVEGF-AなどOAの滑膜病変に関与する可能性のある因子が複数、変性軟骨から荷重によって遊離することが明らかになった。iTRAQによる解析では例えばマトリクスの構成要素のように市販の抗体アレイに載っていない因子も同定されることが期待される。本年度はiTRAQによる解析を終えてその結果を受託解析先から得ることができたが、解析結果については十分な検討を行うことができておらず、その結果の詳細な解釈は来年度の課題として残された。
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Strategy for Future Research Activity |
研究二年目となる2022年度は軟骨荷重抽出液における遊離量の比較によってOAの滑膜病変に関与する「候補因子」を選択する。具体的には抗体アレイとiTRAQの解析結果から、滑膜病変を引き起こす可能性のある因子を選択し、選択された因子について変性軟骨、非変性軟骨、対照軟骨について荷重による遊離量を計測する。遊離量が「対照軟骨<非変性軟骨<変性軟骨」の順であり、かつ変性軟骨からの遊離量が生理活性を示しうるレベルにあるものを「候補因子」とし、その因子についてさらに検討を行う。因子の遊離量の計測はLuminexやELISAを用いて行うことを予定する。 候補因子については遊離量を定量したのちさらに因子の性格に応じて培養細胞を用いた荷重抽出液中の候補因子の生理活性の検討も行う。荷重抽出液をOA滑膜から調整した一次培養滑膜細胞に加え、候補因子の作用が予想通り見られるかを主に細胞の遺伝子発現の変化により検討する。この検討では①荷重抽出液を加えたもののほか、②荷重抽出液に候補因子のリコンビナントタンパクを加えた(spike-in)もの、③荷重抽出液に候補因子の阻害剤あるいは中和抗体を加えたもの、の3条件を設定し、それらの結果の比較から荷重抽出液中の候補因子が予想通りの生理活性を示すかを明らかにする。この検討では候補因子の性格によって、例えば血管内皮細胞や血球系の細胞など最適な細胞を選んで用いる。 以上の解析の結果、OAの滑膜病変と関連する可能性が高いと考えられた因子については、さらにその因子がOA軟骨変性部から多量に遊離する機序を明らかにする。具体的には、たとえばその因子の変性部からの遊離量の増加が変性部における軟骨細胞の産生の亢進による場合には、さらに軟骨細胞の産生が亢進する機序について解明を試みる。
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Causes of Carryover |
参加した学会がウェブ開催となったため旅費が不要となり、主にその分を次年度に繰り越した。繰り越した研究経費については次年度において試薬購入に充てる予定である。
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