2021 Fiscal Year Research-status Report
網羅的血清微量元素プロファイルによる泌尿器科がん疾患特異的血清マーカーの開発
Project/Area Number |
21K16737
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
木村 友和 筑波大学, 医学医療系, 講師 (10633191)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 網羅的血清微量元素プロファイル / ICP-MS法 / 癌種別新規血清マーカー |
Outline of Annual Research Achievements |
生体内には生命機能の維持に重要な役割を担う微量元素が存在しており、その変動はさまざまな疾患と関連する可能性が示唆されている。本研究においては、これまでICP-MS法(誘導結合プラズマ質量分析法)という手法を応用し、主に血清中の17種の微量元素(Na, Mg, P, S, K, Ca, Fe, Co, Cu, Zn, As, Se, Rb, Sr, Mo, Ag, Cs)の濃度を網羅的に測定し、大腸癌、胃癌、肺癌、肝癌、膵癌、前立腺癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌において血清微量元素プロファイルが異なることを明らかにしてきた。またどのような条件下で微量元素プロファイルが変動するか、これまで検討したところ、日内変動するものや年齢、性別、その他生活習慣によって有意に差異を生じうる元素を複数同定することに成功している。 本研究における目標は、ICP-MS法を用いた網羅的血清微量元素プロファイル測定に基づいた泌尿器科癌種別の新規血清マーカーの開発という目的である。これに向けて、8000人異常の健常者および特定の癌腫を対象とした担癌患者の血清を用い、網羅的微量元素プロファイルのデータベースを構築している。本研究では健常者の健診アーカイブデータを用い、年齢、性別、採血時間、腎機能・肝機能・耐糖能・内分泌能・生殖機能などの生理機能や、腹部臓器、生殖器の超音波画像、喫煙歴やサプリメントの摂取歴、さらに居住地も因子に加え、微量元素の変動に寄与する因子の解析を行っている。また微量元素の変動の原因には、多くの因子の関与が疑われるため、従来の線形的な解析方法では臨床応用に十分な精度をもって判別するには限界がある。本研究においては、より疾患特異的な判別法を開発すべく、人工知能を使用することで最適解が得られないか検討を続けている。特に機械学習の手法の一種である、SOM(自己組織化マップ)は各パラメータ間に存在する非線形的な関係を、幾何学的関係を持つ像へと可視化することができるため注目している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
筑波大学附属病院で包括的同意のもとバイオバンクに保管されている腎癌200例、尿路上皮癌200例、前立腺癌200例の血清を用い、ICP-MS法による網羅的微量元素プロファイル解析を進めている。過去の研究の17元素に加え、Li, Mn, Cd, Ba, Tlの5元素を加えて検討を行うべく、試薬や測定機器の最適化も実施した。また健常者の健診アーカイブデータにあわせて、これらのバイオバンク症例における微量元素の変動に寄与する、採血時間、腎機能・肝機能・耐糖能・内分泌能などの生理機能や、腹部臓器、生殖器の超音波画像、喫煙歴やサプリメントの摂取歴、さらに居住地を加えたデータベースを構築した。現時点において前立腺癌、腎癌の微量元素プロファイルを線形的に解析することで疾患を判別することが可能であることを確認し、その内容について論文執筆を進めている。またこれらのバイオバンク症例は、治療前後の血清データも入手できたため、80症例について治療前後の様々な時点における計400検体について微量元素プロファイルの変動についても検討を行った。治療前後で、癌の原発部位の差異以上の微量元素プロファイルの変化はみられず、微量元素が癌の存在自体ではなく、癌を発症しやすい体質を反映していることも想定された。さらに前立腺癌疑いで生検による確定診断が予定される患者に対する検討もおこなった。過去の研究の判別分析を適用すると微量元素のみで癌ありと判別できる割合は、生検で癌と確定診断された患者の方が、生検で癌が否定された患者と比較して有意に多かった。ただし生検の結果にかかわらず、前立腺癌が疑われた患者の微量元素プロファイルは、過去の研究における前立腺癌患者と類似する傾向が確認された。
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Strategy for Future Research Activity |
過去の検討では使用していない元素のデータの解析方法の最適化を引き続き進めるとともに、微量元素の変動に寄与する因子についても検討を進める。具体的な方策として、前者については、ICP-MS法の基礎実験を引き続き行うとともに、癌領域のみならず疫学領域や法地質学における微量元素研究成果の学際的文献的渉猟も実施する。後者については、今回構築したデータベースの汎用化と、他診療データベースにおける様々なデータの二次利用、さらに人工知能の知見を用いた解析を進めていく。特に人工知能に関して、高橋(東京大学)らの研究グループではラットの血中のアミノ酸濃度を包括的に測定し、SOM(自己組織化マップ)と呼ばれる機械学習の技術を応用した数理学的な統計解析により、血中アミノ酸濃度のプロファイルから肝疾患の発症を予測することに成功している。2021年度より高橋らと共同研究契約を締結した。これにより、高橋らが保有する機械学習の技術を用いて我々がこれまで蓄積してきた微量元素の測定結果を非線形的かつ探索的に解析することで、従来の線形的な解析ではうかがえない新たな知見が得られることが期待される。また前立腺癌が疑われた後に生検で癌が否定された患者が、前立腺癌と類似する微量元素プロファイルを有する傾向がみられたのは、前立腺において結石形成、肥大、萎縮、慢性炎症など、癌と鑑別すべき良性疾患の存在が考えられる。前立腺は精液の液体成分を分泌する臓器であり、一部の男性は前立腺に良性疾患を有することで結果的に生殖機能に不都合を来し不妊となることが知られている。このため筑波大学附属病院、および関連病院における男性不妊症患者の残血清を用いた微量元素プロファイル解析に加え、男性不妊症患者の前立腺を中心とした生殖器超音波画像との比較も、より疾患特異的な判別法を開発する上で有用な知見となると期待している。
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Causes of Carryover |
コロナ渦の影響で、当初の予定通りの解析等が進んでおらず、それに関する消耗品の購入が出来ていないため。新年度に入り次第、解析を進めていく。
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