2021 Fiscal Year Research-status Report
進行卵巣癌の病勢制御を目指した癌関連中皮細胞の機能解析と腹膜再生治療の開発
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21K16788
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
吉原 雅人 名古屋大学, 医学系研究科, 特任助教 (00878374)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 卵巣癌 / 腹膜播種 / 癌関連腹膜中皮細胞 / 細胞系譜追跡 / 遺伝子改変マウスモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
腹膜播種を伴う進行卵巣癌に対する有効な治療法は未だに確立されてなく、腫瘍の病勢を制御することで難治性を打破する新たな治療戦略が期待される。研究代表者はこれまでに、進行卵巣癌の腹膜微小環境において卵巣癌関連腹膜中皮細胞(ovarian cancer-associated mesothelial cells: OCAM)を同定し、その機能を追求してきた。本研究では、本来は“防御的”な作用を有する正常腹膜中皮細胞が、OCAMという卵巣癌の進展を促進する“癌の味方”へとコンバージョン(形質転換)する際の分子生物学的メカニズムを、遺伝子改変実験動物モデルによる腹膜中皮細胞リネージトレーシングを用いて解明する(課題①)。さらに、正常腹膜中皮細胞がOCAMへと変貌する過程を標的として、その変化を抑制する未知の候補物質を、大規模ケミカルライブラリーを用いて探索する(課題②)。これにより、“腹膜中皮細胞という宿主細胞”の再生を行うことで、既存の抗腫瘍薬の奏効率をさらに高める“シナジー効果(相乗効果)”を狙った新規治療戦略を開発し、進行卵巣癌の病勢制御を目的とした革新的研究基盤を創造する。 本年度の研究により、腹膜中皮細胞リネージトレーシングのための遺伝子改変実験動物モデルである、WT-1遺伝子の下流にCreERT2を発現させ、loxP領域にtdTomatoを挿入したコンディショナルノックインマウスを樹立した。本モデルを用いて卵巣癌腹膜播種を形成させたところ、当初の予想通り、正常腹膜中皮細胞が、OCAMへと変貌する過程が詳細に観察された。また、正常腹膜中皮細胞がOCAMへと変貌する過程を抑制する候補物質としてcalcitriol(ビタミンD)が有望であることを発見し、本研究論文が国際雑誌Matrix biologyに採択された。これらの成果を背景に、今後さらに研究を進め課題の解決を目標とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究により、当初の研究課題2項目に該当する内容に関する成果を挙げることができたと考える。
①本来は“防御的”な作用を有する正常腹膜中皮細胞が、OCAMという卵巣癌の進展を促進する“癌の味方”へとコンバージョン(形質転換)する際の分子生物学的メカニズムを、遺伝子改変実験動物モデルによる腹膜中皮細胞リネージトレーシングを用いて解明する: 腹膜中皮細胞リネージトレーシングのための遺伝子改変実験動物モデルである、WT-1遺伝子の下流にCreERT2を発現させ、loxP領域にtdTomatoを挿入したコンディショナルノックインマウスを樹立した。およそ70%の標識効率にて、腹膜中皮細胞特異的ラベリングが可能となったことが確認された。マウス卵巣癌細胞株としてID8細胞株を腹腔内投与して腫瘍形成を行い観察したところ、腫瘍間質成分に腹膜中皮細胞が変化していく様子が詳細に観察された。これにより、卵巣癌腹膜播種においては、腹膜中皮細胞を起源とする癌関連線維芽細胞が存在することが世界に先駆けて証明されたと考える。
②正常腹膜中皮細胞がOCAMへと変貌する過程を標的として、その変化を抑制する未知の候補物質を、大規模ケミカルライブラリーを用いて探索する: ケミカルライブラリースクリーニングの予備実験を開始し、複数の候補物質を同定した。一方で、calcitriol(ビタミンD)がOCAMへの変化を抑制することが別の検討より判明していた。一連の検証実験により、calcitriolは正常腹膜中皮細胞の間葉転換を抑制することで、これを用いた卵巣癌の腫瘍進展制御効果を実証し、論文化を行い国際雑誌Matrix biologyへと採択された。腹膜中皮細胞を標的とした卵巣癌治療の報告はこれまでなく、世界初の成果と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に得られた成果をもとに、さらに予定の研究内容を推し進める。①の系譜追跡においては、蛍光組織化学染色などを用いてOCAMの形態や局在を分析すると共に、セルソーターにより標識された腹膜中皮細胞のみを抽出し、RNAシークエンスやプロテオミクスを行うことで、癌性腹膜炎により生じたOCAMの変化を網羅的に解析し、コンバージョンの原因となるメカニズムを同定する。②の候補物質探索においては、本年度の成果にて得られた内容をもとに、Calcitriolを陽性対照としてケミカルライブラリースクリーニングを行う。また正常腹膜中皮細胞とOCAMとの違いを形態によって捉えることを目的としているが、さらに鋭敏な機能性マーカーを同定することで、より高感度なスクリーニングが行えるように準備を並行して進める。
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[Presentation] Peritoneum-inducible Notch-dependent intra-tumoral heterogeneity mediates cell-fate dynamics and development of metastatic ovarian cancer2021
Author(s)
吉原 雅人, 杉山 麻衣, 小屋 美博, 伊吉 祥平, 北見 和久, 宇野 枢, 茂木 一将, 田野 翔, 玉内学志, 横井 暁, 池田芳紀, 芳川修久, 那波 明宏, 吉川文隆, 梶山 広明
Organizer
第73回日本産科婦人科学会学術講演会
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