2023 Fiscal Year Research-status Report
先天性トキソプラズマ感染症におけるペア型レセプターを介した免疫逃避機構の解明
Project/Area Number |
21K16791
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
内田 明子 神戸大学, 医学部附属病院, 助教 (30866364)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | 先天性トキソプラズマ症 / TORCH症候群 / トキソプラズマIgM / PCR検査 / スピラマイシン / 胎盤 / トキソプラズマ遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
トキソプラズマIgM陽性からトキソプラズマ初感染疑いのため、妊娠中にスピラマイシン900万単位/日の内服を行い、2023年1月から12月までに分娩となった妊婦は28人いた。出生した児28人は、眼底検査異常なし、頭部CT検査異常なし、聴力検査(AABR:自動聴性脳幹反応、もしくは、OAE:耳音響反射)異常なしであった。臍帯血もしくは新生児血液トキソプラズマIgMは全例陰性であった。母体からの移行抗体であるトキソプラズマIgG抗体は陽性であった。出生時に症候性先天性トキソプラズマ症の児はいなかった。 児はその後、小児科でトキソプラズマIgGの抗体価の上昇なく、消失していくことを確認していく。またフォロー中にトキソプラズマIgGの抗体価が上昇した場合は、先天性トキソプラズマ症と診断されるが、現時点では1人も認めない。 また出生時に臍帯血もしくは羊水のトキソプラズマPCR検査を行った症例もあるが、陰性であった。これらより先天性トキソプラズマ症の発生はなかったと考える。 先天性トキソプラズマ症は、妊娠中にトキソプラズマに初感染し、胎盤を通して児が感染するTORCH症候群の一つである。先天性トキソプラズマ症の児の胎盤では、トキソプラズマ原虫が確認できるため、胎盤からトキソプラズマ原虫を抽出することが本研究のテーマであったが、先天性トキソプラズマ症の発生が起こらなかった。トキソプラズマIgMはpersistent IgM、偽陽性となることもあり、トキソプラズマIgM陽性で初感染を起こしている症例はごく限られている。また全例が先天性トキソプラズマ症を引き起こすとも限らない。妊産婦への啓蒙活動の結果、トキソプラズマ発感染の数が少なくなっていると考える
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
妊娠中に母体が初感染を起こすと流産や児に重篤な障害を起こすTORCH症候群への認知度が高まったことにより、実際に妊娠中の感染が減っているのが一番の理由であると考える。特にトキソプラズマでは、妊娠中に、生肉の摂取を控える、無農薬の有機栽培の農作物をしっかり水洗いしてから使用する、猫との接触に気を付けるなどの啓蒙活動が行われており、その結果であるといえるであろう。 当施設は関連となっている医療機関や一般のクリニックからの紹介のみならず、近畿地方のトキソプラズマ初感染疑い妊婦の紹介受診が多いが、2023年も先天性トキソプラズマ症の発生はなかった。近畿地方ではジビエ料理などを食する文化もほとんどなく、もとから、感染が少ないエリアともいえる。近年の分娩件数の低下も、この研究には影響していると考える。 また、トキソプラズマには遺伝子多型がよく知られている。欧米と日本とで存在するトキソプラズマのはジェノタイプが異なるといわれており、欧米の先天性トキソプラズマ症は症候性で、かつ、発症率も高いといわれている。日本に存在するトキソプラズマのジェノタイプは感染力が強くなく、症候性感染を起こすことはあまりないのかもしれない。日本でも地域によって存在するトキソプラズマのジェノタイプは異なるとは考えられる。例えば、北海道や九州・沖縄のように大陸と近いエリアでは近畿地方に存在するトキソプラズマのジェノタイプとは異なるタイプが存在する可能性もあるのではないかと類推できる。 感染予防の啓蒙、分娩数の低下、日本に存在するトキソプラズマのジェノタイプが毒性が低いといった、これらの3要素が合い重なり、先天性トキソプラズマ症発生の低下につながっている可能性が考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
少子化が進んだ結果、分娩件数を増やすことはいきなりは不可能である。まずとりかかれることとして、少ない症例をとりこぼすことをなく集めるために専門外来を設けて対応する。トキソプラズマのみならず、TORCH症候群のすべての母児感染を統括して紹介いただけるようにする。遠方から来院される方のために、当院以外で分娩希望された際も、情報収集できるように、他院との連携をとっておく。また産婦人科だけでなく、出生した児をフォローする必要があるため、小児科にも連携を依頼しておく。広く呼び掛けるために当科のホームページにも、専門外来開設について掲載する。関連病院、近隣の開業医にも周知するため、学術集会でも積極的にトキソプラズマの発表を行い、最後に、専門外来を開設したことを伝える。 トキソプラズマの遺伝的多様性という観点から、近畿地方のみならず、他のエリアの施設と連携をとる。これはすでに行っているが、北海道地方の病院やその他の地方の病院とも連携を取り、先天性トキソプラズマ症発生がないかを探っている。特に、ジビエを食する文化があるエリアとして北海道、九州・沖縄地方は、感染の可能性が残っていると考えている。2023年の分娩については連携をとっている北海道地方の複数の病院の分娩でも先天性トキソプラズマ症の発生はなかった。 私本人はAMED(日本医療開発機構)成育疾患克服等総合研究事業 ― BIRTHDAYに参加させていただいており、そちらでも先天性トキソプラズマ症の発生がないかを毎年報告しあっている。これを継続していき、先天性トキソプラズマ症発生が判明したら、その症例の追跡をさせていただき、胎盤保存を依頼し、研究をすすめていけるようにしたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
最初の3年間はCOVID19感染大拡大により、研究自体を行う余裕がなくなっていた。今となっては日常であるCOVID19であるが、特に最初の2年間は、正体不明のウイルスに対して、どのように日常診療を対応していくかで追われていた。研究がほとんど進まなくなっていた。また感染拡大予防の観点から、学術集会も行われなくなっており、その他出張なども制約されたために、費用を使用するシーンがかなり減った。またCOVID19への対応がある程度落ち着いてくるまでの間に、分娩件数はさらに低下してしまった。COVID19大流行により、清潔概念の浸透が、COVID19以外の感染症を低下させ、外出の機会を限りなく0に近づけたためにトキソプラズマIgM陽性となる患者の数も減少したと感じる。事実として、外来紹介数も減少してきた。そのため、先天性トキソプラズマ症の発生に出あう機会がなかった。予定していた試薬を使用する段階にまでこぎつけておらず、研究の進捗状況が進んでいないため、繰越金額が増えている。今年度は他施設との連携を図り、精力的に先天性トキソプラズマ症を発見するのに費用を費やしたいと考えている。
|