2021 Fiscal Year Research-status Report
L-アセチルカルニチンの重要性ならびに神経保護治療への応用
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21K16892
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
前川 重人 東北大学, 大学病院, 助教 (80625294)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 緑内障 |
Outline of Annual Research Achievements |
緑内障は本邦の中途失明原因の第一位の疾患であり、視覚障害によるQuality Of Life (QOL) の低下は社会的な問題となっている。緑内障は視神経を構成する網膜神経節細胞の軸索障害と、それに伴う網膜神経節細胞により視野障害を呈する眼科疾患である。申請者らの先行研究から、網膜神経節細胞死に伴って増加する代謝物群の多くがカルニチン関連代謝物であること、L-アセチルカルニチンの合成酵素であるアセチルカルニチントランスフェラーゼ(CrAT)の欠損が網膜神経節細胞死を引き起こすことから、CrATが網膜神経節細胞の維持および神経保護に関与するとの仮説を立てた。本年度は、CrAT遺伝子のCDS領域全長をマウス網膜cDNAから鋳型として導入し、CrAT過剰発現プラスミドを作製した。このプラスミドをマウス神経細胞株であるHT22細胞に導入し、24時間後に細胞を回収してウェスタンブロッティングによりCrATの発現量を確認したところ、コントロールベクター群に対してCrAT過剰発現群ではCrATタンパク質の有意な発現誘導が認められた。このプラスミドからAAV2セロタイプのウイルスベクターを作製し、マウス硝子体内に投与して網膜神経節細胞にCrATを過剰発現させた。ウイルスベクター投与一か月後に、緑内障モデルである視神経挫滅の処置をおこない、7日後に眼球摘出をして抗RBPMS抗体により網膜神経節細胞を染色した。その結果、CrAT過剰発現群では網膜周辺部において残存する網膜神経節細胞数が有意に多い結果であった。これらの結果から、CrATの過剰発現は視神経挫滅により誘導された網膜神経節細胞死を抑制する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画に沿って研究が進んでおり、仮説を裏付ける結果が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
CrATの過剰発現により保護された網膜神経節細胞は網膜周辺部に限局しており、視神経乳頭付近では神経保護効果は認められなかった。その理由として2つの可能性が考えられる。ひとつは、ウイルスベクターが網膜周辺部に感染されやすく、視神経乳頭付近に感染しにくいことである。もうひとつは、網膜神経節細胞には複数のサブタイプがあるため、網膜周辺部に多く存在する網膜神経節細胞のサブタイプが神経保護されやすい、という可能性である。まずひとつめの仮説を検証する実験として、AAV2-CMV-mCherryを用いてウイルスベクターが感染する網膜神経節細胞を可視化し、網膜の場所によるウイルスベクターの感染効率の違いを検証する。また、いくつかの代表的な網膜神経節細胞サブタイプのマーカー染色により、網膜内の局在を検証する。さらに、当初の研究計画にもあるように、CrAT過剰発現マウスを用いた電気生理学的検証や行動学的評価に加え、CrAT過剰発現した網膜神経節細胞のFACSによる単離とRNA-seqによる遺伝子発現解析による細胞死抑制の分子メカニズムを明らかにする。本研究結果は緑内障病態におけるL-アセチルカルニチンの重要性ならびに神経保護治療への応用への可能性を示しており、モデル動物を用いて緑内障病態の一端を明らかにすることで、新たな治療法開発の基礎的分子基盤としての貢献が期待される。
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Causes of Carryover |
CrAT過剰発現による神経保護メカニズムの詳細な検証実験が必要なため.
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