2023 Fiscal Year Research-status Report
マイクロ波照射により歯科補綴物を脱着可能にするスマートセメントの創製
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21K17080
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Research Institution | Fukuoka Dental College |
Principal Investigator |
梶本 昇 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 講師 (30824213)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | レジンセメント / 接着 / 脱着 / 近赤外線 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度の結果から,接着強さを低下させるために照射する電磁波の周波数を2450 MHz(マイクロ波域)から300 THz(近赤外線域)付近に変更し,実験を行った。 まず,熱源である炭化ケイ素(SiC)と近赤外線の発熱特性を調査した。SiCのみを添加したMMA系レジンセメント硬化体(2×2×2 mm)に近赤外線(center wavelength: 976 nm, power: 500 mW, Continuous Wave condition)を照射して検討したところ,SiC添加量が5 mass%で発熱による到達温度が最大となった。また,SiCのみを添加したMMA系レジンセメントでウシ象牙質とCAD/CAM用コンポジットレジンブロックを接着し,微小引張強さ(μTBS)試験を行ったところ,SiCを5 mass%添加してもμTBSは変化しなかった。この結果を元に,SiC添加量を5 mass%に絞った。続いて,SiC添加量を5 mass%に固定して,熱膨張マイクロカプセル(F-36,松本油脂製薬,以下,TC)の最適な添加量をμTBS試験で検討した。その結果,TCが20-40 mass%の組成では1 mmの距離から30秒の近赤外線照射によりμTBSが有意に低下した。μTBS試験後のセメント破断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ,近赤外線照射によりセメントの構造がスポンジ様に変化していることが観察され,セメントの構造が近赤外線照射により壊れやすい構造に変化したことが推測された。 本結果により,in vitroではあるが,近赤外線照射により任意にレジンセメントの接着強さを低下させることが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画のマイクロ波域の電磁波の照射で接着強さを低下させることはできなかった。しかしながら,周波数を変えた近赤外線域の電磁波を利用することで,ウシ象牙質とCADCAMレジンブロックを用いた微小引張強さ試験において接着強さを低下させることができた。本研究の主目的は接着後に任意に脱着を可能にするという点にある。計画していたマイクロ波照射では接着強さを低下させることができなかったが,周波数帯の違う電磁波の近赤外線照射によって主目的を達成できていることから,研究データの内容に関しては十分なものが得られたといえる。 しかしながら,予定していた論文投稿が年度末に間に合わず,研究スケジュールに関しては「遅れている」といえる。遅れた理由としては所属大学が所持している走査型電子顕微鏡の故障が大きな要因である。 したがって,研究内容および研究スケジュールを総合して「やや遅れている。」という区分を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,本科研費で得られた成果に関する論文を投稿する予定である。 具体的には,論文の投稿に向けたデータの再現性確認やn数を増やすための追実験,また,データの取りまとめを行ったのち,論文を投稿し,今年度中のアクセプトを目指す。
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Causes of Carryover |
昨年度中に研究データをまとめ,論文を投稿し,アクセプトまで達成する予定であった。しかしながら,所属大学が所持している走査型電子顕微鏡の故障により研究に遅れが生じたため,論文の投稿が年度末に間に合わなかった。n数を少なくするなど,工夫をすれば論文の投稿・アクセプトを期間内に達成することが可能であったかもしれないが,より多くの実験データを取得することで,より精緻な論文とすることを優先したため年度を超えてしまった。 このような理由から,次年度使用額は「データの再現性確認やn数を増やすための追実験に要する予算」および「論文投稿に関する費用(英文校正・掲載料)」に使用する予定である。
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