2021 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of molecular mechanisms of oral cancer stem cell formation formation using 3D-culture device
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21K17147
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Research Institution | Kyushu Dental College |
Principal Investigator |
西牟田 文香 九州歯科大学, 歯学部, 助教 (20808406)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 口腔がん / スフェロイド / 3次元培養 / がん幹細胞 / 糖鎖 |
Outline of Annual Research Achievements |
我が国において、口腔がんは罹患率、死亡率ともに増加傾向にあり、他臓器同様、がん幹細胞を標的とした治療法確立のため、幹細胞の発現・維持機構の解明が急務とされる。その際に一般的な2次元培養下の細胞を用いた研究では、組織環境が生体内と大きく乖離しており、口腔がん細胞においても薬剤に対する感受性や増殖様式は生体内の挙動と異なると考えられる。 今回、特殊なマトリックスを用いない簡便な手技で、細胞同士が凝集した球状の集合体(スフェロイド)を均一かつ大量に作製可能な新規のマイクロウェル型チップを用いて、がん組織の環境と類似した3次元培養を行い、その特性について2次元培養との比較を行った。 ヒト舌扁平上皮がん細胞(HSC-3)およびヒト歯肉扁平上皮がん細胞(Ca9-22)の2種の細胞株をそれぞれ非接着処理を施したマイクロウェルチップ上に播種したところ、両細胞ともに経日的に凝集し、均一なスフェロイドを形成した。また形成されたスフェロイドの内部は、生細胞を主体に構成されていることが示された。また、スフェロイド構成細胞の幹細胞性マーカー(CD44、Sox2、Oct4、Nanog)の遺伝子発現は、2次元培養群と比べて有意に亢進していることが見出された。さらに、形成されたスフェロイドを再度、細胞培養用のプレートに播種し、二次元環境下でoutgrowthさせた細胞においても幹細胞性マーカーの発現亢進は維持されていた。このことから、開発したマイクロウェルチップ上を用いてスフェロイド化した口腔がん細胞では幹細胞化が誘導されている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書の記載内容に示す通り、2021年度は「口腔がんスフェロイドの作製と評価」を中心に、がん幹細胞マーカー発現の評価にフォーカスした研究を展開した。歯根膜細胞を用いた先行研究の成果から推測されたように、開発したマイクロウェルチップを用いたスフェロイド培養により、口腔がん細胞に幹細胞化が誘導されることを証明することができた。当初は、ヒト舌扁平上皮がん細胞株(HSC-3)単独での解析を計画していたが、デバイスの汎用性を証明するため、ヒト歯肉扁平上皮がん細胞株(Ca9-22)についても検討を追加したところ、同様の結果を得ることができた。今回使用したマイクロウェルチップは、デザインの自由度が高く、様々な細胞への最適化が可能である。このことから、がん細胞だけでなく、その他の細胞にも応用可能な汎用性の高い、革新的な三次元培養法の提案や、がん以外の疾患モデルや再生領域の研究に展開できるものと確信している。 また興味深いことに、マイクロウェルチップ上でスフェロイド化した口腔がん細胞は、outgrowth後も幹細胞性が維持されていた。今後、ヌードマウスへの移植実験を遂行するにあたり、高い腫瘍原性や薬剤抵抗性を有する新たな口腔がんモデル動物の樹立に繋がることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
スフェロイド形成によるがん幹細胞化の詳細な評価のため、タンパクレベルでの幹細胞マーカーの発現およびスフェロイドにおける局在を確認するとともに、各種抗がん剤に対する感受性について、二次元培養群との比較検討を行う。また幹細胞化誘導のメカニズムとして、スフェロイド内部には構成細胞由来のマトリックスネットワークが構築され、その主要構成成分である糖鎖によるシグナルが細胞特性を制御するという仮説のもとで研究を行う。幹細胞性を制御し、その破綻ががん発生の要因となるHippo-YAP/TAZシグナルに着目し、スフェロイド内の口腔がん細胞における各分子群の活性化レベルを評価する。活性の亢進もしくは抑制が見られた分子群については、ノックイン・ノックダウン実験を行い、幹細胞化や薬剤抵抗性への影響について評価する。 加えて、in vivoでの解析のため、スフェロイド培養後の各種口腔がん細胞をヌードマウスに移植し、形成される腫瘤の形態的変化を観察する。さらに形成された腫瘤を採取し、病理組織学的な検討を追加する。 研究成果について取りまとめ、学会での積極的な発表とともに、英文誌への論文投稿に向けた準備に着手する。
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Causes of Carryover |
当初、設備備品として、ライブセルムービーアナライザーと専用PCを計上していたが、所属施設が共通機器としてオールインワン顕微鏡を購入したため、これを代替として研究を遂行することができた。また参加した学会はすべてオンラインで開催されたため、旅費の支出もなかった。結果として発生した余剰金については、検討する口腔がん細胞株の追加に伴い、増加したデバイスの作製や生化学研究を遂行するために要する消耗品費として使用する。 また生化学研究については、当初の予定と変更して、遺伝子系の解析を優先させたため、FACSやWestern blotなどに使用する抗体の購入に至らなかった。繰り越した研究費については、次年度早々に消耗品として購入する予定である。
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