2022 Fiscal Year Research-status Report
精神疾患の処方行動における治療ガイドラインの普及と教育の効果検証
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21K17261
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
長谷川 尚美 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 精神疾患病態研究部, リサーチフェロー (70865906)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 統合失調症 / うつ病 / 治療ガイドライン / 社会実装 / 処方調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の土台となる「精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究(EGUIDEプロジェクト)」は国内外に例がない治療ガイドラインの社会実装とその効果を検証する研究である。本研究はEGUIDEプロジェクトにより収集された処方データを元に、普及と教育の効果を明らかにすべく担当医の受講状況に沿って症例を比較し、講習の効果がどのような処方行動に影響を及ぼすかどうか検討する。また、受講者個人の理解度・実践度の成績と処方データとを紐づけ、処方行動との関連を検討することを目的としている。 EGUIDEプロジェクトでは、医療の質(Quality Indicator, 以下QI)を数値で示し効果の評価を行っている。本研究にて使用する処方調査データは2016~2019年の間にEGUIDEプロジェクトに参加する医療機関から提供されたすべての統合失調症、もしくはうつ病症例の処方データ計約14000症例である。 これまでに、講習受講後の医師が担当した患者(受講後)と、講習受講前の医師が担当した患者(受講前)において、いくつかのQIが受講後の方が高いことを明らかにした。具体的には、統合失調症においては、抗精神病薬単剤治療率、他の向精神薬の併用もない抗精神病薬単剤治療率、抗不安薬・睡眠薬の非処方率受講後であった。うつ病においては、他の向精神薬の併用もない抗うつ薬単剤治療率、抗不安薬・睡眠薬の非処方率であった。 R4年度はそれらのQIについて、ロジスティック回帰を行い患者の年齢・性別・病院属性で調整を行っても同様の結果が得られることを確かめた。また、受講した医師の受講前のQIと、1度も受講していない医師のQIの間に有意な差がない事を確認した。さらに、受講した医師について受講前から受講経過年数ごとにQIが増加していくことをロジスティック回帰を用いて確かめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に予定していた解析が終了し、学会発表なども行っていることから、本計画はおおむね順調に進展していると考えている。一方で、QIに影響を及ぼす因子として、病院が所在する地域差の存在が知られている。それについてさらに解析を進める必要があるため、期間の延長を申請し、R5年度はこれについて研究を推進する
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Strategy for Future Research Activity |
R3年度は、 EGUIDEプロジェクトのガイドライン講習を受講した後の医師が担当した患者(受講後)の方が、講習受講前の医師が担当した患者(受講前)よりも医療の質(Quality Indicator, 以下QI)が高いことを明らかにしてきた。さらに、それは受講後3年間で徐々に増加していた。R4年度はこれらの結果について、ロジスティック回帰を用いて患者の年齢、性別、退院した病院の属性(大学病院、国公立病院、民間病院)で調整しても同様に有意に差があることを確認した。現在、この結果を国際誌に論文投稿中である。 研究期間の延長を申請し、R5年度は次のことを行う。先行研究において、うつ病のQIの1つである修正型電気けいれん療法の実施率は、西日本よりも東日本の方が高いことが明らかとなっており、病院が所在する地域によって差があることが浮き彫りになった。地域によって、治療の伝統的な文化の違いや、患者数、患者の金銭的格差等の違いが想定され、そういった要因が向精神薬の服用や、ガイドラインの社会実装に影響を及ぼすと考えられている。こういったことから、統合失調症もしくはうつ病のすべてのQIについて地域差があるのかどうか検討を行う必要がある。地域の分け方として、先行研究と同様に東西で分ける方法や、より細かい八地方区分で分ける方法、都市部と地方で分ける方法を用いて検討を行う。 これらの結果から、ガイドラインの社会実装を阻害、あるいは促進する新しい因子を見つけることができると考えている。それにより、ガイドラインの社会実装を継続的に拡大させ、精神科医療の発展にさらに寄与できることが期待される。
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Causes of Carryover |
徐々に新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響は少なくなってきたが、出席予定の学会が本年度もオンライン開催となり参加に係る旅費の支出がなくなった。また、解析用PCなど既存の機器が使えたものがあったため購入せずとも研究は予定通りに行うことができたため物品費の執行が想定より少なかった。さらに、資料整理などの研究補助のアルバイトの人員の従事時間数が予定より少なかったため人件費の執行が抑えられたが、資料整理なども含め研究代表者自身で行ったため研究の進捗には問題はない。未使用額については、R5年度に予定しているさらなる解析と成果報告費用に充てる必要があるため確保する。
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Research Products
(25 results)